骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

07« 2017 / 08 »09
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.

絵の中の騎士 



絵の中の騎士

2010.10.27 発行。二冊目。

メインキャラ:ヒギリ



※サンプルのため途中で終わります※




******





   絵の中の騎士


 アマチャは山沿いにある小さな町だ。小さいといっても、都市と比べれば町の規模が一回りか二回り小さいだけで、決して活気がないわけではない。山で採れる薬草は戦士達の必需品で、アマチャの薬草は効能が良いとされ特に好まれている。遠路遥々、この薬草のためだけに商人が買いつけにくるのも珍しくない。
 人が集まれば、それだけ物が動く。いつも繁盛しているアマチャを、単なる田舎町だとケネスは思わなかった。
 生まれ育ったアマチャが好きで、ケネスは騎士になった。たまに町へ降りてくる魔物を討ち、アマチャを守るのが騎士の役目だからだ。
 真面目なケネスは、町人からの信頼も厚く、史上最年少で部隊を任される身となった。……と、言っても、実際に与えられた部隊の規模は小さいものだ。構成員がケネスの他に二人だけという形だけな部隊であっても、主な仕事が門の見張りという雑用に近いレベルであっても、彼は不満の一つももらさない。
 それくらいに真面目なのだ。
「………………」
 そんな彼が、しかめっ面のまま足早に廊下を進んでいた。すれ違う上司にはきちんと頭を下げていたが、鋭い目つきが和らぐ事はない。険悪な雰囲気のまますれ違うケネスに、上司達はいつものような笑顔で「今日は許してやれよー」などと軽い声をかける。返事もそこそこに、ケネスは目的の場所へと向かう。
 看板も案内も何もない扉の前で、彼は足を止めた。役職というくくりが大嫌いな隊長の部屋だ。
 ノックをするが返事はない。
「マクシム隊長、ケネスです。お話があります」
 再度ノックをするが、相変わらず返事はない。が、それはいつものことなので、ケネスは「失礼します」とドアノブをひねった。
 部屋の中には、机に頬杖をついたマクシムがいた。いつものようなヘラヘラとした顔をこちらに向けている。「お、どーした?」
「どーした? じゃ、ありません! あれは一体どういうことですか!」
 物凄い剣幕でケネスが詰め寄っても、マクシムは笑顔を一つも崩さない。
「おしどり夫婦じゃねぇーんだし、あれじゃ分からん」
「魔物の件です!」
 ケネスはキッパリという。いくら昔の好とはいえ、形上最高職であるマクシムに意見できることではないと理解していた。それでも、ケネスには我慢の限界だったのだ。
「発見されたのが山奥だったからといって、人に危害を加える魔物を放置して撤退するなんてありえません!」
「ありえなくないって。その化物を相手した部隊が壊滅してんだぞ? 一次撤退するのが妥当だろう」
「ならすぐに部隊を足すべきです」撤退したことが許せなかったのではない。撤退したまま放置されているのが許せないのだ。「今すぐにでも、討伐に向かうべきです」
「数がありゃ倒せるとは限らない。あの化物は、俺達では倒せないんだ。だったら、精々あいつらの神経を逆撫でないようにするのが得策だろう?」
「倒せない? どうしてそんなことが言い切れるんです!」
 声を張り上げるケネスに、マクシムはため息をついた。
「あのな、ケネス。あの化物は、魔物とは違うんだよ」
 ピリ、と。周りの空気が変わるのを感じた。マクシムは普段通りの柔らかい笑顔を浮かべたままだったが、こういう気を発している時の彼は本気で、どれだけケネスが騒ぎ立てようとも彼の考えは決して変わらない。
 揺るがない。
「倒せないからといって、野放しにするわけじゃない。ちゃんと、その道のプロに任せてある」
「プロ……?」
「首都の方から、援軍が派遣される。……つっても、そんな大勢じゃないんだろうけどな。……まぁ、それはどうでもいいか」マクシムはそう言って笑う。「化物退治はプロに任せる。だから、お前がどれだけ粘っても、俺が騎士団を動かすつもりはないさ」
 臆病者。ケネスはそう思った。
「臆病者」マクシムの声にケネスは驚く。「そう思いたきゃ、思っておけばいい。……お前は言い訳にしか聞こえないだろうが、一応言っておこうか。俺は仲間を無駄にするほど無謀じゃないってことだ」


   †


 魔物。
 山や森や平地や谷や、人里から離れたところに彼らはいる。彼らは人を襲うことはあるが、殺すことはない。その事実を知っているのは、一部の人間であり、ケネスもその一人だ。
 基本的には害のない魔物だが、中には例外もいる。そういった、荒くれ者を退治するのが騎士の仕事であり、使命である。人里を襲いかねない魔物を倒す。新参者に分類されるケネスも、既に何度か討伐任務に加わったことがある。
 今回も同じだと思っていた。森林にて発見された魔物が人を殺していた。巡回中だった部隊が発見、即座に討伐を試みるも、逆に返り討ちにあってしまう。
 そんなことは珍しかった。聞いた話では、部隊が壊滅するまでの間に、魔物に痛手を与えることも出来なかったらしい。ほとんどの場合、一度で討ち取れずとも、それなりのダメージは与えられる。騎士団だけが被害をこうむるというのは、ありえないことだった。
 それほどまでに、その魔物は驚異的なのだ。そんな魔物を放置するなど、ケネスには考えられないことだった。
(返り討ちにあうのは、装備と兵力が足りてないだけだ。きちんと対処すれば、倒せないなんてことはないのに……!)
 ケネスは真面目だ。真面目すぎる故に理解出来ない。マクシムの言い逃れを思い出すたびに、思わず拳を握り締めるほど腹が立った。
 そんなケネスは、いつものようにアマチャの入り口である門の警備をしていた。許されるものならすぐにでも魔物討伐に向かいたかったが、マクシムに「門の警備を怠るなよ?」と釘をさされてはそうもいかない。命令を破るわけにはいかないのだ。そう自分に言い聞かせながら、もう一人の自分が腹を立てる。それではあのマクシムと同じではないか。
「ケネスさん、そんなに怖い顔してどうしたんですかぁ?」
 のんびりと言ったのはルーノだ。
 ルーノはケネスの二つ年上で、入団したのも彼のが先だ。けれども、今現在の肩書きはケネスの方が上である。そのことに対して、文句の一つや二つを言っても怒られない立場であるルーノだったが、彼はケネスの出世を自分のことのように喜んでいた。口調同様、のんびりした男である。
「……怖い、ですか?」
 一時的にとはいえ先輩だったルーノを相手に、今は自分の方が上司であるのだから敬語を使う必要はないのだが、生真面目なケネスはどうしても口調が固くなってしまう。逆にルーノは、ケネスが出世しようがしまいが、とってつけたような敬語を交えながら間延びした声で話すのだ。
「うんうん。いつも以上に怖いですよー。せぇーっかく、綺麗な顔してるんですから、もっと眉間のシワを減らすべきですよぉ」
「別に、好き好んでシワを作ってる訳じゃないんですが……」
 と、言いながらも、ケネスは気にしているようで、人差し指で自分の眉間をぐりぐりと伸ばしている。
「まぁ、世の中適材適所ですからねー」ケネスは何も話していないのに、ルーノはのんびりとした口調のまま続けた。「マクシム隊長だって、倒せるもんならとっくに倒しにかかってますよぅ。あの人、見た目どおり血気盛んな人ですから。その隊長が動かないとなると、やっぱりそれだけの理由があるんじゃないんですかぁ?」
「……どうですかね」
「あ、信じてないなぁ? ああ見えて、隊長って優秀なんですよー? 噂じゃ、首都の王様に気に入られて、近衛兵にならないかって誘われたらしいんですよ。それをわざわざ蹴った無謀な人、ってのがあの隊長なんですから」
「……それって、フォローになってませんよね?」
 無謀と言ってしまっている時点で、ケネスには逆効果としか思えなかったが、ルーノは気づいていないようで、「えーそうですかぁ?」と首を傾げていたりする。
「まぁ、噂でしかないんですけどねー」更にそう付け足してしまっては、ますます信用がない。「どうやら、今回の助っ人とやらも、その時のツテで派遣されてくるみたいですし」
「……どうしてそんなことを知っているんです?」
 ルーノはケネスと違い、ずっと門番をしていたはずだ。どうして本部に乗り込んでいったケネスが知らない情報を、ルーノが知っているのだろう。顔をしかめるケネスを見て、ルーノはへにゃりと笑った。
「商人たちが教えてくれたんですよぉ。彼らってホント何でも知ってますしねー」
「根も葉もない噂でしょうに」
「でも、火のないところに煙は立ちませんよー」
「自分は何も聞いていませんけど……」
「ケネスさんが教えてもらえなかっただけかもしれないじゃないですかぁ」
 そう言われると、ケネスは言葉を返せなかった。いつものこととはいえ、散々文句を並べてきたのだ。煙たがられてもおかしくはない。ケネスが自己嫌悪に表情をくもらせる頃に、ルーノはのんびりと続ける。
「まぁ、隊長も知らなかっただけかもしれないですけどー」
 あははと笑うルーノに、ケネスは「そういうフォローはもう少し先に入れるべきでしょうに」とソッポを向く。
 視線を街道に戻すと、人影を捕らえた。
 魔物が現れたため、人の行き来はいつもより少ない。数少ない来訪者も、防衛策として各々が連れ立って集団で移動するのが一般的だ。
 にも関わらず、現れた人影はたったの一つ。
 それも女性のものだった。
 近くに連れの姿は見当たらない。完全に一人のようだ。
 怪しい。ケネスはそう直感する。
 魔物が暴れる時、人間が何かしらの形で関与している。国が決めた規定数以上の魔物を狩っていたり、魔物を飼いならそうと改造したり。ほとんどの場合が後者であり、手がつけられなくなった魔物を放置して逃げ去る、というなんとも迷惑かつ無責任な話である。
 彼女もその一人かもしれない。そう思ったケネスは、近づいてくる女性の容姿を観察する。
 栗色の短い髪に金色の瞳。丸くて人懐っこそうな瞳だが、それには強い光が宿っている。それよりも目につく特徴といえば、彼女の背の高さだ。平均男子の身長であるケネスと同じくらい――いや、彼女の方が高いもしれない。近づいてくる女性と同じ目線であることに驚いていると、女性は門の前までやってきて立ち止まった。ケネスたちの背後にある門を見上げながら、大きく伸びをする。
「やぁ~っと、ついたぁー! 思ったより長かったなぁ……。こんなことなら、大人しくいうこと聞いてたほうが楽だったかな……」と、独り言を呟いている。
 街を移動するには国の許可がいる。それほど難しい審査ではないが、国の発行する通行証がなければアマチャに入ることは当然出来ない。
 そんな常識を知らないはずがないのに、女性は通行証を出す素振りを微塵もみせない。
 怪しい。ケネスは警戒する。
「……通行証はお持ちですか?」
 ケネスが声をかけると、女性は頷いた。
「あ、うん。持ってる持ってる。えーと、確かこの辺に……」
 と、女性はごそごそとコートのポケットに手を突っ込み出した。通行証がなければ、目的の街に入ることが出来ないのは勿論、元の街に帰ることさえ難しくなるというのに、そんな大事な物をポケットにしまうのかとケネスは唖然とする。
「あれ? おかしいなー。ここじゃなかったっけ?」
 しかも見つからないらしい。
「うーん、と。えーっと……」
 女性は再び、ごそごそとポケットを漁り出したが結果が変わるはずもなく、
「通行証って、失くしたら入れない?」
 と、ポケットに手を突っ込んだまま訊ねた。
「当たり前でしょう」
 ピシャリとケネスは答える。通行証をなくしたと同情を買い、街に不法潜入するのは賊の常套手段である。
 ケネスは警戒を強める。
 女性はといえば、必死にポケットを漁っていた。かなり慌てた様子で独り言を呟いている。「どうしようどうしよう……! これで仕事が遅れたとか、バレたら絶対に笑われる!」
 そんな彼女の独り言に、ルーノが反応した。
「お姉さんは仕事でアマチャに来られたんです?」
「ああ、そうそう、仕事で……」と話半分に答えていた女性だったが、急に何かを思いついたようで表情をパッと明るくさせた。「そうだよ! その手があるじゃん!」
「その手……?」
「あんたらも騎士なんだろ? じゃ、伝令とかで聞いてないかな? 化物退治の〝テイラー〟が派遣されたって」


(3P-9P)

 

 

スポンサーサイト

category: ◆小説(文字系ネタ)

2011/08/07 Sun. 16:08 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

コメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://honegumidannkai.blog.fc2.com/tb.php/147-3f5d6681
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top