骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

09« 2017 / 10 »11
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.

青き龍、海を駆ける 

青き龍、海を駆ける

2011.05.05 発行。六冊目。

メインキャラ:セージ、ジェレイラ



※サンプルのため途中で終わります※




***



   青き龍、海を駆ける



 潮の匂いがする。そう思いながら、セージは顔をあげた。
 辿りついたこの場所は、海の見える見晴らしの良い草原だった。キラキラと太陽を反射する海面は見ていてとても清々しく、吹き抜ける風もそれこそ爽やかなものだったが、そんな情景に反してセージの心中は穏やかではなかった。
 セージは辺りを見回す。セージは、テイラーの本部からこの草原へと飛ばされた。テイラーの本部はこの草原とは別の次元にあり、こちらの世界からしてみれば、セージたちが突然姿を現した形になるのだ。
 これだけ見晴らしが良いとなると、誰かに見られている可能性は高い。ひやひやしながらセージは目を凝らしたが、幸いこの世界の住人は誰も近くにいなかったようだ。
 セージはほっと胸を撫で下ろしたが、問題はまだまだこれからである。
 この世界は破損している。世界の源ともいわれる赤い糸が溢れたこの世界は、クリートという化け物の存在を許してしまう不安定な状態なのだ。その状況を打破するのが、セージたちテイラーの役目である。
 クリートと対峙しなければならない状況は出来るだけ避けたいセージだったが、胸につかえた不安や緊張はそれが原因ではない。
 ちらり、と、セージは視線を動かした。
 青い空に青い海。そんな輝かしい青すら霞んで見えてしまうほどに煌びやかなアクアブルーの髪。水のように透き通る青髪をなびかせる美女こそが、セージの不安の原因だった。
「あら?」
 セージと目があうと、彼女は艶やかに笑ってみせる。
「ソンナに見つめて、どうしたのかしラ?」
 独特な発音で喋る彼女だったが、どうしてかその不自然な話し方も、彼女の唇からこぼれてしまえば恐ろしいほどに自然だった。陶器のように白い肌も、凹凸のついたバランスの良い躯体も、しなやかに伸びる細い手足も、どれも作り物のように嘘くさいくせに、彼女がゆったりとした足取りで地面を踏む度に、その美しさを当然の物にしてしまう。
 ジェレイラ・サゥ。
 氷の女王とも呼ばれる彼女こそ、ハウンドに所属するテイラーの一人だ。
 セージは彼女に対する様々な噂を聞いている。半分くらいはセージを驚かすためにつかれた嘘だろうが、そこで得た情報はどれも容赦がないものだった。クリートだけではなく人間に対しても容赦せず、村を一つ滅ぼしたとか、仲間を仲間と思わずに人を何人も殺めているとか。聞くのはどれも、根も葉もないにしては物騒すぎる情報だった。火のないところに煙は立たないと思っているセージからしてみれば、今すぐこの任務を誰かと交代して、早々と彼女の前から立ち去りたいところだ。
 美しいだけでなく、威厳もあるジェレイラに対し、セージはこれといった特徴のない少年だ。
 誰もが目を見張る美しさも力強さもなく、それどころか、数分前に会った人に『はじめまして』と言われることもあるほどの存在だ。どうしてよりによって、自分が彼女と任務を共にするのだろうと、考えても考えてもセージには分からなかった。
(……というか、ガブさんの考えてることはいつだって分からないんだけど……)
 上司であるガブリールの指示で、セージはジェレイラと肩を並べている。彼の言い分としては、『テイラーの一員になるには、イデアルの奴だけではなくハウンドの奴とも面識を持たなければいけない』らしい。今回の任務も、一人前のテイラーになるための通過儀礼に過ぎないらしいが、その相手がよりによってジェレイラということにセージは悪意を感じた。
(絶対楽しんでる……! 絶対楽しんでる!)
 にたにたと垂れ下がった彼のアイメイクを思い出し、セージはこっそり腹を立てた。
 と、不意にアゴを掴まれ、セージは強引に首の向きを変えられた。「いッ?!」奇声を発したのは首の筋を違えたからではなく、目の前にジェレイラの整った顔が迫っていたからだ。
「セージくんったラ、アタシの顔は見るクセに、質問には答えてくれナイのネ」
「え? あ、ぁああ、すみません! 考えごとをしてて!」
「アラ、アタシを見て、何を考えてイたのかしラ?」
 くすくすとジェレイラは意地悪く笑った。その吐息が頬に触れ、セージはますます慌てた。
「に、任務の……! これからの任務のことですッ!」
 ぐいぐいと首に力を入れるものの、彼女の細腕は意外と強力でセージの視線はなかなか解放されない。ぐるぐると泳ぐセージの視線を見て、ジェレイラはもう一度くすりと笑った。
「ソウ」
 それだけ呟くと、ジェレイラは、長い指をぱっと離す。解放されたセージは、再び捕まることのないように数歩後ずさって距離をおいた。
「ソレで……? セージくんは、コノ案件をどうカタづけてくれるのかしラ?」
「ど、どうって……」自分の上司への恨み言しか考えてなかったセージに答えられるはずがない。「と、とりあえずは聞き込みから始めないといけないですよね……」
 辺りを見回しながらセージは言った。
 潮風の心地よいこの場所に、赤い糸の姿は見えない。溢れているはずの糸が一筋も見つからないとなると、ここは破損箇所から相当遠い場所のようだ。
 ジェレイラも同じことを考えていたのだろう。彼女はニッコリと笑って頷いた。
「ソレじゃあ、場所を代えましょうか」

   ☆

 草原を少し進むと道に出た。二人は道を進み、小さな町へと辿り着く。
 海に面した港町は、人の姿が多くあった。けれども、そこに活気は少なく、すれ違う誰もが表情にどこか暗い影を落としていた。糸が原因で何か問題が起きているのだろうか。セージはそう思いながら町を進む。
 しばらく町を歩いたが、やはり糸の姿は見つからない。町の中心にある広場でセージは足を止めた。
「破損箇所、ないですね……」
「ソウネ」
 ジェレイラはそう答えただけだった。先ほどのような笑顔はなく、退屈そうな彼女は無表情で、たったそれだけのことなのにセージにはとても恐ろしく思えた。広場で駆け回る子供の笑い声が大きく聞こえる。
「あ、あの!」いくつかの案を瞬時に思い浮かべたセージは、最良と思われる提案を選択する。「僕が破損箇所を探してくるので、ジェレイラさんはここで待っててください」
「待ツ?」
 言っている意味が分からない、といった具合にジェレイラは眉を寄せて首を傾げた。
「ヒドいわ、セージくんったら。こんな、退屈極まりナイ場所で、退屈極まりナイ時間をアタシに過ごせと言うのネ?」
 あからさまな嫌悪感だった。完全に彼女の機嫌を損ねたセージは、慌てて頭を下げた。
「いや、あの……すみません! でも、ほら、聞き込みとか、そういう雑用をさせるのも悪いと思って……それで……」
 ごにょごにょと呟きながら、セージはちらりと視線をあげた。ジェレイラはまだ不機嫌そうに、つんとそっぽを向いていた。空を見上げ、切れ長の瞳をスゥと細くした。
 そのナイフのような鋭い視線に、セージはぞっとした。
「あら、楽しソウ」
 凍りつくような視線とは裏腹に、ジェレイラはそう呟いた。彼女の視線は空を見上げたままだ。セージもジェレイラと同じ方向を見上げる。
 青い空に、白いグライダーがくるくると円を描いていた。目を凝らすと、ゴーグルをつけたツナギ服の男がぶら下がっているのが見える。
 ハンググライダー。そう思ったセージだったが、上空の機体はどう見ても滑空していない。高度を落とさないままくるくると旋回する様は、獲物を狙う鷹のようだった。
「何ですかね、あれ……」
 これ幸いに、セージはジェレイラにたずねてみる。セージと同じく、この世界に着いたばかりのジェレイラがあの機体の正体を知るはずもないのだが、セージにとって重要なのは、上空の何かの正体ではなく、話題を一新することだ。
「何かしらネ」
 案の定、ジェレイラも首を傾げていた。
「空を飛ぶ機械……ですか。あれ、借りれたりしないんですかね……」
「あラ、セージくんって、アアイウのに興味がアルの?」
「興味っていうか……、上空から糸を捜せたら便利かなって思っただけです」
「意外ネ。てっきり、高いトコロはダメなのかと思ってたワ」
「……確かに、高いところは苦手ですけど……」
 それ以上に貴女の方が怖いです、なんて、セージには口が裂けても言えなかった。
 セージは機体を見上げる。ぐるぐると旋回する機体が、少しずつだが高度を下げているようだった。機体の羽部分に、青い鱗の龍が描かれているのが見えるようになっている。
 機体はどんどん近づいていた。龍が飛び上がった水面の、水滴の一つ一つが見て取れるほどに、機体は真っ直ぐに二人の方へと向かってきている。
「ええぇぇぇっ?!」
 墜落事故とは思えない速度だ。意図的にこちら目がけて飛んできているのだろうとセージは判断し、慌ててその場から駆け出した。
 ジェレイラもその場から離れるものだと思っていた。セージよりも場数を踏み、クリートさえも踏み潰してしまいそうな彼女のことだから、どれだけ速くグライダーが突進してこようとも、それを避わすことくらい造作もないことだろう。
 そう思ったのが、いけなかった。
 あろうことか、彼女はその場で悠長に機体を観察している。
「じぇ、ジェレイラさん?!」
 何をしているんですか! とセージが続けるよりも速く、彼女の身体が地面を離れる。
 地面の際を滑空した機体は、ブォンと轟音を発して高度を上げた。やはりモーターか何かが搭載されているようで、機体は見る見る上昇し、セージの手の届かない位置で滞空した。
 機体の模様もしっかり見て取れる位置だった。機体にぶら下がる男も、その男に抱えられるジェレイラの姿もはっきりと見える。
「よぉぉぉく、聞けよぉぉぉ!」
 ガラガラとした野太い声を張り上げて、機体の男はセージを指差して言った。
「この女の命が惜しけりゃ、ルチルっつー宝石をありったけ持って来い!」
「る、ルチル……?」
 セージは困惑する。
 ルチルクォーツ。
 テイラーの誰もが持っているその石は、マジックストーンとも呼べる限りない能力を秘めた石だった。



(2P~6P)




※ブラウザバックでお戻り下さい




 

スポンサーサイト

category: ◆小説(文字系ネタ)

2011/08/07 Sun. 16:17 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

コメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://honegumidannkai.blog.fc2.com/tb.php/150-ae7812b7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top