骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

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Introduction 


Introduction (イントロダクション) 全74P

2011.10.30 発行

メインキャラ:セージ、アカリ
本部のお話です。他にもメンバーがちらほら登場しています。
タツキの出番多め。ソサカ初登場。

選択試験』、『清き乙女は空と泣く』のあとのお話です。
上記二作のネタとかネタバレとか沢山入ってます(´・ω・`)


※サンプルのため、途中までになります※

   Part A : Abandon


「本当に良いのですか……?」
 控えめに、けれども確実に訴えかけるような口調でたずねられ、アカリはこくんと頷いた。
「はい。もう思いっきりやっちゃってください」
 ハッキリとした口調で答えるアカリの背後で、ソサカは困ったように笑って見せる。迷いがあるのは他の誰でもない彼であり、手元でチャキチャキと空を切るハサミがそれを証明していた。
 髪を切りたい、とアカリは言った。今後のことを考えれば、動きにくい長髪は必ず自分の足を引っ張ると思ったのだ。だから髪を切ってほしいと、アカリはヒギリに言った。それを聞いた彼女は目を丸くしながら、「別に無理に切らなくても良いんだぞ?」と言ったが、それだけだった。他にも何か言いたそうな様子だったが、それ以上は何も言わない。その代わりに、「あたしじゃ悲惨な結果になるだろうから」と、彼女は弟であるソサカに代理を頼んだのである。
 アカリはソサカに色々と世話になっていた。ヒギリに似て優しい面立ちの彼は、難色を示しながらも「わかりました」と頷いた。ヒギリは任務があるため席を外し、この場にはアカリとソサカの二人きりである。
 後片付けをしやすいようにと床に紙を敷き、少しだけわくわくしながら椅子に座ったアカリだったが、肝心のソサカは乗り気ではないようだ。アカリの後頭部を苦しそうに見つめながら、ハサミの素振りを繰り返している。
「ほ、本当に良いのですか……?」
「大丈夫ですよ~。だって、ほら、これからのことを考えたら、短い方が良いじゃないですか」
「髪が長くても、結べば良いと思うのですが……」
「それでも邪魔になりそうなんですよねぇ……」
「大丈夫ですよ! 邪魔になんてなりません」
 そう力説されてアカリはうぅむと心の中で唸った。どうやら彼も、ヒギリと同じような心境らしい。任務に向かうヒギリはぽつりと「綺麗な髪なのに、もったいないよなぁ……」と呟いていたのをアカリは耳にしている。
やはり姉弟というだけあって、思うことは同じようである。違うのはその後の行動で、同意してくれたヒギリと違い、ソサカはアカリの意見をなんとかしようと考えてくれている。
どちらが良いとか、どちらが悪いとか、そういう問題ではない。少なくともアカリは、どちらの気遣いも嬉しく感じているのだ。
(二人とも優しいなぁ……)
 そう思いながら、アカリは「ちょっと良いです?」とソサカからハサミを借りるべく手を差し出した。ソサカは小首を傾げながらもアカリの要望に応え、彼女の小さな手にハサミを預けた。
(第一歩は、自分で踏み出さなきゃ)
 そう思い、アカリは自らの髪にハサミを入れた。
 ジャキンと、音がした。小さいはずの音はやけに大きく聞こえた。背中が隠れるほど長く伸びていた髪が、パサリと紙の上に落ちる。
「アカリさんッ?!」
「えへへ、切っちゃった~」
 ほんの一房、髪の束を切っただけだ。それでも、肩の荷が下りたように頭が軽くなった気がする。驚きのあまり顔を青くしたまま固まるソサカの前で、アカリはジャキジャキとハサミを使い続ける。
「よぉ~し! こんなものかな?」
 毛先はボサボサ。あまりにも不格好な髪型にも関わらず、アカリはスッキリとした気分だった。鏡に映る自分が自分ではないような気がして、その違和感が何故か嬉しく思えるのだ。そんな風に、清々しい表情を浮かべるアカリの後ろで、ソサカがため息交じりに言う。
「こんなもの、って……、すごくボサボサじゃないですか」
「うーん……そうだよねぇ……。でもこれ以上は、私にはどうしようもないし……」
 頑張ればもう少しマシになるかもしれないが、それでもマシになる程度だろう。
「貸してください」そう言って、ソサカは手を出した。アカリはハサミを彼に返す。「これじゃあ、いくらなんでもあんまりですよ。ちゃんと整えますから、もう少し座っていてください」
「うん。ありがとう、ソサカさん」
「ソサカで良いですよ」
 あまり年も変わりませんし、とソサカは微笑んだ。つられてアカリも笑い返す。
その間にも、ソサカは、チャキチャキと軽快なリズムを刻みながらアカリの髪を整えていた。
 細かく入れられていくハサミは、アカリの毛先を繊細に刻み、ぶつ切りにしたとは思えないような自然な雰囲気へと変貌していく。
「やっぱり、自分で切るのとは全然違うね」
 ソサカに頼んで良かったと思いながら、アカリは数分後に出会うであろう新しい自分に胸を躍らせた。



   Part B : Basic


 自分にとっての父親は、いわば憧れの存在なのかもしれない。セージはぼんやりと、そんな事を考えた。
 セージの父親は、セージが幼い頃に亡くなったようだ。一人息子であるはずの彼が、父の死について断言出来ないのには理由がある。
 セージは父親と生活を共にしていない。テイラーという世界を巡る糸を巡り、人知れず活躍するという組織に属していた彼は、セージの世界に居座ることはなかった。仕事、仕事、とにかく仕事で、セージが父を想って寂しくなった頃にふらりと帰ってくる。そんな存在だった。
 父親の死も、直接聞いた訳ではない。ある日を境に、父がパッタリと姿を現さなくなり、母が涙を流す日が続いた。母は涙の理由を語らなかったが、幼いながらもセージはその状況を理解した。
 それ以来、母はとにかく必死だった。セージが旦那のようにいなくならないよう、必死だった。テイラーに憧れる彼を必死に諭し、必死に叱り、矯正した。
 その歪みを無効にしたのは、セージの叔父だった。自分の気持ちを忘れてしまっていた――忘れようとしていたセージの背中を押したのだ。叔父はお得意の屁理屈をこね、セージにテイラー採用試験なるものを受けさせた。
 その結果、セージは今、テイラーの本部にいる。

   ♪

 数多の世界を行き来するテイラー。その本部の場所は、どこにでもあり、どこにでもない場所になる。
 完全に切り取られた場所。テイラー本部という『世界』と言っても差し支えない空間に、その建造物は存在する。
 その大半は、テイラーに属する人間の住む家となっている。社宅として支給される部屋がいくつも連なっており、そのうちの一室が、これからセージが暮らしていく場所だ。
 運び込んだ荷物をひとしきり片づけ、セージはふぅと息をついた。生活に必要な最低限の家具は備え付けられていると聞いていた為、セージが運んだ荷物のほとんどが私服である。残りの数パーセントを占める私物は、主に書物で、その二種類を除けばあとは細々とした雑貨や文房具があるくらいだ。一般的な引っ越しに比べれば、ずっと荷物は少ないのである。
 運ぶのに手間取らなかった私物を片づけるのに、そうそう時間はかからない。数時間荷物と格闘しただけで勝敗は決した。ベリベリと段ボールの底を止めていたガムテープを剥がしながら、セージは自分の部屋を眺める。
 テイラーに支給される部屋は、いくつか種類があるらしい。基本的には個室であり、テイラーの中で実力を認められれば、それだけ広い部屋が支給されるのだとか。テイラーに加入したばかりのセージにはまだまだ遠い話である。
(そもそも……、僕ってまだ、正式にはテイラーじゃないんだろうけどね……)
 候補生、とでもいうべきだろう。テイラーにふさわしいか確かめるべく、試験を受けたセージではあったが、その試験が正規のものであるかどうか聞かれては返答に困ってしまう。仮にその試験が、彼のお茶目故の雰囲気づくりではなかったとしても、あれ以来、セージはまだ、テイラーとしての指導を受けていないのである。
 世界の構造を説明されていないし、
 赤い糸の事も説明されていないし、
 糸を喰う化物を教えてもらってもいない。
 すでにセージはその情報を嫌というほど知っている。実際に目にし、体感したセージに今更その事を論じる必要はないと彼らは判断しているのかもしれないが、それにしたってこの放置っぷりはありえないくらいである。
 入学式早々、自宅謹慎をくらったような状況なのだ。
(……って言っても、別に外出するなと言われている訳ではないし)
 今いる自室に鍵をかけられている訳でもない。その気になればふらりと部屋を抜け出し、テイラー本部を散策する事も不可能ではない。
 しかし、セージの意識はそれを拒んでいた。理由は簡単。セージは地図を持っていないのだ。
 口頭でざっと説明された情報では、テイラーの本部は大きく三つに分かれているらしい。一つはセージがいる、イデアルという派閥の社宅。もう一つは、ハウンドという派閥の社宅。そしてもう一つが、テイラー全員が使用する共同の施設が揃った区域である。
 たった三つの区画じゃないか、と馬鹿にしてはいけない。その三つの規模が恐ろしいほど広いのだ。セージが初めて訪れた本部の入り口は、共同区域にあったのだが、そこから社宅までの道のりが長い。質素な飾りの門をくぐり、居住区に入ってからの道のりも長い。一体ここには何人住んでいるのだろうかと、期待ではなく不安を抱くほどの広さだった。
 にも関わらず、この部屋は驚くほど静かだった。沢山の部屋があるだろうに、その部屋には誰も住んでいないのか物音一つ聞こえない。騒がしいのは苦手なセージではあるが、こうも静まり返っているというのも逆に落ち着かない。
「……やっぱり散歩でもしようかな」
 ちゃんと帰ってこれるように道を覚えながら、うろうろ歩いてみようか。そんな事を考えていると、コンコンと部屋の扉が叩かれた。
 誰だろう? そんな疑問を抱きながら、セージは返事をする。散々放置していたガブリールがようやく迎えに来たのだろうかと、状況の進展を期待しながら扉を開ける。
 扉の先にいたのは、見慣れない顔の青年だった。
 黒い髪に黒い服。まるで自分の影のような真っ黒な姿に、セージは思わず目を丸くする。目の前の彼が自分の影でないという事は、彼がセージよりも背が高いことで証明されるし、何よりその瞳が力強く主張していた。
 真っ赤な瞳。吸い込まれるような赤色をした瞳に感情はなく、ただぼんやりとセージの姿を映していた。
「……え、と」
 初めて見る顔にセージの思考は硬直していた。この人は誰だろう? 表情の乏しい青年の顔は、一度見たら忘れられそうにもない。彼とは初対面であることは間違いなさそうだ。
「あの、部屋……間違ってませんか?」
 そう先に尋ねたのはセージだった。部屋を間違えたのだろう。長い廊下にいくつもある扉の造りはどれも一緒で、違う所といえば扉の傍につけられたプレートの柄ぐらいである。
青年はぼんやりとした瞳をこちらに向けるだけで、一言も発さない。無言の圧力にセージがびくびくしていると、青年はセージの顔と部屋のプレートを見比べ、首を横に振った。
「間違ってない」
 ぽつりと。表情同様、感情の乏しい声で彼は呟く。
「セージ?」
 そう首を傾げられて、セージは自分の名前を確認されているのだと気づく。「あ、はい。セージです、初めまして」
「ん」
 ずいと、返事もおろそかに青年は持っていた紙きれを差し出した。困惑しながらもセージはそれを受け取る。
「渡したからな」
 彼はそれだけ言い残すと、くるりと踵を返し、スタスタと歩き出した。「ちょ、ちょっと……!」あまりの放置っぷりにセージは思わず彼を呼び止める。「な、何ですかこれ……」
「頼まれた」
「頼まれた?」
「ガブさんに」
 ガブリール、略して、ガブさん。
 セージをテイラーに引き込んだ張本人でもあり、セージが部屋を片付けるまで散々放置してきたのも彼である。ようやくの指令通達に、セージは慌てて用紙に視線を落とそうとした。それを引き留めたのは、あっさりとこの場を立ち去ろうとする青年の後ろ姿である。
「あ、あの!」
 まだ何か用があるのか。足を止めて振り返った彼の表情にはくっきりとそう書かれており、セージは思わず言葉に詰まる。「ガブさんに頼まれたって事は、貴方もイデアルのテイラーなんですよね?」
 青年はこくりと頷く。
「僕はセージって言います」
「知ってる」
 そう答えて、青年は再び立ち去ろうとする。
 意思の疎通が出来ない事に頭を抱えたくなりながらも、セージは声を張り上げた。
「貴方はなんていうんですか?」
 そう尋ねられ、青年はきょとんとした様子で立ち止まった。それからぼんやりと視線を宙に浮かべたかと思うと、何か納得したかのようにこくんと頷いた。
「ナオキ」
 ぽつりと答えた青年は、それから踵を返して歩き出す。
(忙しいのかな……?)
 どこかぼんやりとした様子の彼の後姿からは想像しにくかったが、こうも早く帰ろうとしているのであれば何か急ぎの用があるのかもしれない。聞きたいことは沢山あったが、セージは潔く諦めることにする。
 代わりに答えを求めるべく、セージは手にした用紙に視線を落とす。扉を閉め、ベッドに腰掛けて用紙を開いた。強く握られていたのか、そのままポケットにでもしまわれていたのか、用紙はくしゃくしゃと折れ曲がっており、読み始めるまでに結構時間がかかった。
 整った字で書かれていた内容はこうだ。『テイラーとしての活動を開始するべく、色々と準備をする。指定の場所に、指定の時刻に来るように。遅刻厳禁』遅れたら罰ゲームだぞ、とどこかセージが遅れてくるのを楽しみにしているような一文もあったりしたがセージはそれを読み飛ばした。
 指定されていた日時は一時間後の今日である。急な話だなぁと思いながらもセージは場所を確認する。『場所:第三司令室(詳細は別紙地図参照)』とあるが、どう頑張っても紙は二枚にはがれない。
 地図がない。いくらガブリールがお茶目な人だとはいえ、そんなあからさまな意地悪をしてくるとは思えない。
 考えられることは簡単だった。セージは慌てて廊下へ飛び出したが、ナオキの姿はどこにもない。彼が歩いて行った方向へ少し進んでみたが、彼の姿はどこにも見当たらない。これでは受け取りそびれた地図を手に入れることは不可能だ。
「……地図がないんだ。罰ゲームだって、免除してくれるはず……!」
 遅刻が確定しつつあるセージは、少しでもそれを回避しようと駆けだした。

   ♪

 空腹を訴える腹を押さえながら、ナオキは廊下を進んでいた。頼まれた仕事も終わったし、後は自分が何をしようと問題はないだろう。ガブリールに報告する義務もない。
 向かうのは食堂である。昼食をとりそびれたナオキはお腹がすいて仕方なかった。ソサカがいると良いけど。静かに微笑みながら美味しいご飯を作ってくれるソサカがナオキは好きだった。こももの作る料理も同じくらい美味しいが、それ以上に彼女のテンションは疲れるのである。食事の時ぐらい、そっとしておいてほしい。
 二人の料理を思い出すと、ナオキのお腹がぐぅとなった。ソサカが食堂にいたとしても、そこから何かを作るとなるとすぐに食事にはありつけないかもしれない。少しだけ憂鬱になりながら、ナオキはこももに飴玉をもらっていたことを思いだす。「クリティカルな自信作やで!」と力説されながら受け取った飴玉は、確かポケットの中にしまっていたはずだ。ナオキは歩きながらごそごそとポケットをあさる。
 かさりと乾いた音がした。音の割に質量のないそれは飴玉ではなく、軽いくせにやけにかさ張ってポケットの中を占拠している。飴玉の捜索活動を邪魔してくるそいつを引出しながら、ナオキは首を傾げた。
 見慣れない紙だった。よく見ると、どうやらテイラー本部の地図が描かれているらしい。すでに本部の間取りを理解しているナオキには不要の物だ。
(捨てたと思ったけど……)
 テイラーになって間もない頃、渡された物と同じである。数日も経たないうちにくしゃくしゃに丸めて捨てたと思っていたのだが、いつの間にかナオキのポケットに帰ってきていたようだった。恐るべし地図。テイラーというのは地図にも帰還本能があるらしい。
 ぐしゃりと、ナオキは地図を握りつぶしその紙切れを廊下に捨てた。
 それがセージに渡しそびれた地図だったという考えは、ナオキにはこれっぽっちもなかった。仮にその考えに至ったところで、面倒くさがりな彼は「ま、いっか」と今と同じように地図を丸めるだけである。

      ♪

「む? ようやくお出ましか」
 肩で息をするセージを見上げながら、ガブリールはのんびりした様子で言った。
「新人のくせに遅刻とは、セージのくせに生意気じゃないか」「こ、これには訳が……ありまして……!」
「ふむ」
 肩でというよりは最早全身で息をするような状態で、セージは事情を説明した。
 地図が渡されておらず、場所が分からなかった事。きょろきょろと『本部の案内板とかないかな』と期待しながらあちこちを彷徨っていたところ、その挙動不審っぷりに黒髪の男性に呼び止められた事。着流しの男性はセージから事情を聞くと、落ち着いた声音で場所を説明してくれた事。「方角、正反対だぞ」という出来れば聞きたくなかった事実を確認しながらも、彼から正しい場所を教えてもらいようやく辿りついた事。
「むしろ僕は、褒めてもらっても良いくらい頑張ったんじゃないですかね……!」
 うっかり名前を聞きそびれてしまったが、その男性がいなければこうして第三司令室に辿りつくことはなかっただろう。ふらりと散歩に出かけたりしなくて良かったと思いながら、セージはようやく息を整える。
「それは災難だったな。しかし遅刻は遅刻だぞ?」
「うぅ……」
 大目に見てもらえると思っていたセージは、厳しい口調のガブリールに唸り返すことしか出来なかった。


(1~9P)
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category: ◆小説(文字系ネタ)

2012/03/16 Fri. 23:51 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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