骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

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忘却記憶進化論 

忘却記憶進化論 全70P


2012.03.18名古屋コミティア40より販売開始予定。

メインキャラはナオキとセージ。他はちらほらと登場。
Introduction』より後のお話です。


※サンプルのため、途中までとなります※











   一章 降臨


 空間移動が終わり、まだぐらぐらする頭を持ち上げてセージは息をついた。既に何度か、ガブリールに同行して任務に赴いてはいたものの、この体が内側からひっくり返るような感覚にはどうしても慣れない。
 辺りを見回す。今回のポイントは人気のない公園だった。既に日は沈み、辺りは真っ暗だったが、ぼんやりと辺りを照らす古びた街灯のおかげで視界は保たれている。詳しい時間は分からないが、静まり返った周囲の様子から、今はかなり遅い時間なのだろうとセージは推測する。
 辺りの様子に気を配りながら、セージはくるりと周囲を見回す。目的の存在が中々見つからず、ひょっとしてはぐれてしまったのかと不安になりだしたころ、薄暗い景色に飲み込まれかけていたナオキの姿を見つけてホッとする。
 黒い髪に黒い服。身内にでも不幸があったのかと思うのは、その格好だけでなく感情の乏しい表情のせいだろう。何かが抜け落ちてしまったかのようなぼんやりとした表情のまま、彼は滑り台を見上げていた。
「ナオキ」
 セージが名前を呼ぶと、彼はちらりと首を動かしてセージの方を見た。返事らしい返事はその反応だけで、辛うじて向けられた視線も、すぐに滑り台の方へ向けられてしまう。
「……滑り台が珍しいの?」
 ナオキに歩み寄りながら、セージは尋ねた。頷いて答えてくれるかと期待したセージだったか、ナオキは無反応のまま滑り台を見上げている。何かあるのだろうかと、セージも滑り台の上に視線を向けてみたが、これといって変わった様子はない。セージはちらりと、ナオキの横顔を見る。
 ぼんやりとした赤い瞳は、やはり滑り台へと向けられていた。セージはそれを隣で見上げながら、律儀にナオキの言葉を待っていた。
『ナオキはほとんど喋らないが、ちゃんと声も出せるし耳も聞こえている。必要以上に喋りたがらない傾向にある』
 だから、出来るだけナオキに話をさせるように仕向けてはくれないか。そんなことを、セージが頼まれていることを、ナオキは知らない。
 隠し事をしているという後ろめたい事実にもやもやとした感情を抱かなかった訳でもないが、その場の流れに逆らって人の頼みを断ることなんてセージに出来るはずもなく(それも相手は対等な立場ではなく、上司だ。断れるはずがない)、頷く事しか出来なかったセージは、こうしてナオキの横顔を見上げながら『どうしたものか……』と沈黙に耐えている次第である。
 自分自身の身長は高くも低くもない平均的なサイズだとばかり思っていたセージだったが、その常識は、テイラーに所属するようになってから通じなくなってしまった。会う人会う人、自分より背が高い人ばかりなのである。
 目の前でぼんやりしているナオキもそうだった。セージの身長より十センチ以上高いのではないだろうか。視線をかなり上げなければ、彼の表情はうかがえない。けれども、どこかぼんやりとした――何を考えているかよくわからないナオキの雰囲気というのは、どうも幼い子供を髣髴させる。実際の所、セージよりナオキのが年下ではあるのだが、彼は職場の先輩だったりする。微妙な立ち位置にどう接するべきなのかと、セージは対応に困っていた。
(でもなんかこう、大きな幼稚園児みたいに見えちゃうんだよなぁ……)
 珍しい遊具を目の前にして、どう遊んでいいか分からないので固まってしまった子のようだ、と、本人の耳に入ったら殴られてもおかしくないような事を思ってしまったので、セージはブンブンと頭を振って自分で自分を律することにした。
 自分達が今するべき事は、肩を揃えて滑り台を観察するのではなく、任務を遂行する事。自分にそう言い聞かせて、セージは顔を上げた。口を開こうとナオキに視線を向けたが、声は発せれなかった。ぼんやりとしていた瞳が少しだけ鋭くなり、彼の眉間にシワが寄っていたのだ。
 そんな一目で警戒していると分かるような表情を見て、セージも慌てて滑り台の方へと視線を向ける。
 街灯の光があるとはいえ、今は夜だ。滑り台の背後に生い茂る木々の葉は真っ黒に変色しており、のっぺりとした奥行きのない暗闇を形成している。
 そんな虚空を睨みつけながら、ナオキは静かに呟いた。
「くるぞ」
 キラリと、何かが光った。それを認識すると同時に二人はその場から飛び退いた。ぎゅん、と無機質な音が空を貫く。
 セージは自分のいた場所を振り返る。ついさっきまで、自分たちがのんびり立っていた地面が黒く焦げていた。
(光線?)
 そんな単語を思い浮かべていると、再び何かが光ったような気がしたので地面を蹴る。ぎゅん、と無機質な音が再びしたが、その音はセージの傍には届かなかった。
 音の方へ目を向ける。いつの間にかナオキは剣を取り出し、睨みつけていた虚空へと駆け出していた。無機質な音は彼を捉えず、駆け上っていた滑り台に穴を開けた。
 ナオキは臆すること無く滑り台を駆け上がり、跳躍。手にした剣を振り下ろす。
『ギィィィ!』
 悲鳴と共に姿を現したのは巨大なコウモリだ。バタバタと羽を動かしながら、のっぺりとした暗闇から浮かび上がるかのように存在をあらわにする。
 ナオキの一閃を受けたコウモリだったが、傷はそれほど深くない様子だ。着地するナオキへ、白くて鋭い歯をむき出しにした。
 その口元に赤い光が集まっていく。
「ナオキ!」
 危ない、という言葉を続ける間もなく、ぎゅん、と無機質ナ音が静かな公園に響いた。
 セージの心配を他所に、ナオキは三度目の光線も回避していた。地面が煙をあげて焦げている。直撃しては怪我では済まないレベルな気がして、セージはぞっとする。背筋を凍らせながらも、武器を喚びだしながら駆け出した。
 コウモリはバタバタと羽を動かしていたが、その忙しさの割にはその場を移動していない。姿を現した場所から向きを変えているだけだった。コウモリは攻撃を仕掛けてきたナオキしか見ていないようで、セージの存在に気づいていない。なるべく死角へ回り込むようにしながら、セージはコウモリへと近づいた。
 空中に留まるコウモリを攻撃するべく、セージが選んだ武器は短銃だ。といっても、その構造は完全に対クリート仕様であり、弾薬もなければ弾丸もない銃だった。
 セージはそれを両手にしっかりと握り締め、狙いを定める。
 ナオキに狙いを定めるコウモリに、狙いを定めて。
(外れませんように!)
 そう祈ってから、引き金を引く。
 パン、と乾いた音がして、コウモリは悲鳴を上げる。翼と身体を打ち抜かれたコウモリは、ボトリと地面に落下した。しばらく残った片翼をバタバタと動かしていたが、それもすぐに動かなくなる。
「……良かった、当たった」
 ほっと一息ついたセージは、武器を構えたままコウモリに近づいた。コウモリはぴくりとも動かなくなってはいたが、万が一の事もあるので用心するに越した事はないだろう。足音を忍ばせながら、そろそろと近づいてみる。
「随分といきなり出てきたよね……」
 討ちそびれてないかびくびくしながらセージが言うと、ナオキは顔をしかめた。その様子に首を傾げる間もなく、頭上から羽音がして、セージは状況を理解する。
 振り返りざまに目にしたのは、暗闇に紛れたコウモリの姿。
 白い歯はセージへと真っ直ぐ向けられ、
 その口元には、赤い光が集まっていて――
「やば――!」
 避けようと頭が判断する間もなく、ぎゅん、と無機質な音がした。思わず目をつぶったセージだったが、繰り出された光線はあらぬ方向へ向けられ、錆びたベンチに穴を開ける。
 バキン、と、硬い音がした。目を開けたセージが見たのは、巨大なコウモリを踏みつける女性の姿。
 タンクトップにホットパンツ。編み上げブーツにシルバーアクセサリー。肩口で切りそろえられた髪は真っ赤で、バンドでギターをジャカジャカ弾いていそうな格好の女性だ。
「ああぁぁぁ! もう! バタバタバタバタうっさいわね! 今何時だと思ってんのよ!」
 ガスガスと、コウモリを踏みつけた足を上下させながら、女性は大声で叫んだ。
「その光線もうざい! 変な音ギュンギュンさせてほんっと耳障りなんだけど! マジで止めて欲しいんだけど!」
 女性のあまりの剣幕に、セージは声をかけられずにいた。とりあえず状況を判断しようと立ち尽くしたまま、思考回路をフル稼働させていると、のんびりとした足取りでナオキが隣にやってくる。
「ど、どうなったの……?」
 女性の反感がこちらに向かないように、セージが小声で聞くと、ナオキは首を傾げながら答えた。
「降ってきて、蹴飛ばして、踏みつけた?」
「……え?」
「それで、踏みつけてる」
 そんな主語の抜け続けた説明で、すぐさま状況を理解出来るはずもなく、セージは必死に頭を働かせた。
 そうだ。順序を逆行しよう。セージはそう考えた。目の前の女性はクリートである巨大コウモリを罵倒しながらガシガシと踏みつけている。ナオキの説明の中心は彼女なのだろう。
 つまり、コウモリを踏みつけたのも彼女で、蹴飛ばしたのも彼女で、降ってきたのも彼女なのだ。
「……降ってきたって……」
 思わず視線を上げる。暗闇に木々がそびえているが、人が降ってくるほど高いはずもない。大体、降ってくるべく木に登ろうとすれば、嫌でも葉の擦れる音がするだろう。
 二人がこの場に現れた時、そんな音はしなかった。
 現れた後も同様ならば、彼女はその前からずっと、木の上に身を潜めていたわけであって。
(何の為に……?)
 考えても答えは見つかりそうになかったし、見つかったところであまり意味はなさそうだったのでセージは考えるのを止めた。
 ちらりと、女性の方へ視線を向ける。クリートの存在も知られていなければ、魔法という概念も存在しないこの世界。セージ達がそういう類の術を使った所を見られていたとなれば、それなりの説明を彼女にしなければならない。隣でぼんやりしているナオキにそんな芸当が出来るはずもなく、当然、その役目はセージに周ってくるのであって。
 どう切り出そうかと、セージが女性の剣幕に声をかけるタイミングを見失っていると、踏みつけられ続けていたコウモリがしゅぅと音を立てて消えた。
 跡形もなく、それこそ煙にでもなったかのように消える。セージ達テイラーにとっては常識だったが、この世界でこの状況は非常識極まりない。いくつか考えていた説明手順を一から考え直すハメになり、セージは泣きたい気分になった。
 当の女性は、その光景を気味悪がることもなく、攻撃対象を失ったことに対して「ちっ!」と舌打ちをし、地面を強く蹴り上げた。砂埃があたりに舞う。
 ぎろり、と。攻撃の対象が消えたコウモリからセージ達へと向けられた。
「ちょっとアンタたち」
 低い声で呼び止められ、セージは身体を強張らせた。一人での任務だったら、確実に逃げ出していたが、ナオキが隣にいるのだからそういう訳にもいかない。
「このコウモリって何なのよ? ちょっと前からバタバタバタバタうっさいし、ボコったら消えるしワケわかんないんだけど」
「ボコったら消えるって……」
 セージは目を丸くした。事前に得ている世界の情報では、クリートに対抗する力を持つ人間はいないとされていたのに。
 それこそ、怒りに任せて何度も蹴飛ばせば、気絶くらいはするかもしれない。けれども、消失する――確実に仕留められるとなると話は別だ。
「……えっと、貴方は何度かコウモリを消した、と……?」
「アンタバカなの? それ以外の何の意味になるのよ」
「え、で……でも」
 どこまで話しをして良いのだろうか。不安から言葉の出なくなったセージは、思わずちらりとナオキを見上げた。
「コウモリはクリートって化け物だ」
 ぼそぼそとナオキが言ったので、セージはますます言葉を失う。その横で、赤毛の女性が「ふぅーん」と気のない返事をした。
「クリートは普通の人間には倒せない」
「でもさっき、そっちの小さいのが倒してたじゃない」
 アゴで指されたセージは「小さいのって……」と思わず不満がこぼれたが、女性にぎろりと睨まれたので、「何でもないです……」と小さい声で頭を下げた。
「俺たちはテイラーだから」
 随分と漠然とした説明だったが、女性はそれで理解しているようだった。
「ふぅん……。まぁとにかく、アンタらがあのコウモリたちをやっつけてくれるわけね」
 ナオキは頷く。女性は理解しているというよりも単に深く考えないタイプの人間なのかもしれないと、セージは一人思った。自分が彼女の立場だったら、この説明では納得できないと断言できる。
 口下手というよりは言葉数が少なく、余計な装飾のないナオキの話し方は、隣で聞いていてヒヤヒヤするものだった。
 嘘もつかなければ、はぐらかしもしないだろう彼の言葉遣いは、あまりにも真っ直ぐすぎる。
「お前は、何者なんだ?」
 真っ直ぐに、ナオキは女性に聞く。
「何者? ああ、名前を聞いてるの?」
 ナオキはふるふると首を横に振った。
「クリートは人間には倒せない」
 きっぱりと、ナオキは言って。
「だから、お前は何者だ?」
 今にも剣を抜けるような、そんな体勢だった。
 ぼんやりとした瞳は少しだけ細められ、ナオキは普段よりもピリピリした雰囲気をまとっている。
 そんな彼の様子をものともせず、女性はにこりと笑ってみせた。
「ああ、なるほどね。クリートを倒す人間はいない、か」
ふんふん、と頷いてみせる女性。
「簡単な話よ。アタシが人間じゃないってだけ」
 にっこりと笑って、
 あっさりと答える。
「だって、アタシ神様だもん」
 赤い髪の女性は、そう言った。


(3-9P)


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category: ◆小説(文字系ネタ)

2012/03/16 Fri. 23:55 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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