骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

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 この手の『もしもこの人が家族だったら』という質問は、理想と現実が離れていれば離れているほど面白い答えが得られるものだ。人が『もしも』を考える時なんて、大抵が後悔している時か現状に満足していない時なのだから。
 それはつまり、現実に満足している相手に聞いても成立しない質問なのだ。
 アカリちゃんはソサカ君を『優しい』から理想のお兄ちゃんと答えた。そんな『優しい』彼が、実の兄を怪訝に思うはずもなければぞんざいに扱うはずもなく、「良いお兄ちゃんって誰だと思う?」とアカリちゃんがたずねたところで、「タツキ兄さんはぼくにとって良き兄ですよ」と答えるに決まっているのだ。
 食堂に並べられたテーブルの一つ。そこにソサカ君はいた。亜麻色の長い髪を後ろで束ね、清潔感に溢れる服装はとてもソサカ君らしい。「えぇー、タツキさんなのっ?!」と驚くアカリちゃんに顔をしかめることもなく、ソサカ君はにこにこと微笑んで頷いている。澄んだアクアブルーの瞳を向けられると、その真っ直ぐさにアカリちゃんは何も言えなくなってしまう。
「それより、お二人もどうですか? カップケーキ、焼いてみたんですけど」
 ほんのりと甘い香りに僕の腹の虫は活力にあふれたようで、ぐーぐーとカップケーキを要求してきた。長居をするつもりはなかったが、他にも聴取対象がいるのでちょっとくらいおやつをつまんでも怒られないだろう。僕が席につくと、アカリちゃんも機嫌を直して席についた。
 どうやら作ったお菓子を友人らに振る舞っていたらしい。同席していたのは真竹緑(さなたけ みどり)と雛菊(ひなぎく)の二人だった。二人ともハウンドに所属しているが、ソサカ君とは仲が良く、よく一緒に稽古をしているのを目にする。
「っつーか、そんなの聞かなくてもわかりそうなもんだけどな」
 肘をつきながら言った少年が真竹緑だ。袖のない黒のタートルネックにシルバーアクセサリーをつけ、黒いヘアバンドをして前髪をあげている彼は見た目通りの荒っぽい気性だ。名前と同じグリーンの瞳は鋭く細められているものの、僕が彼に萎縮することはない。なんといっても緑は僕より年下で、尚且つ、なんだかんだで面倒見がいい子なのだ。いつもぎゃーぎゃーと文句を垂れてはいるのだが、何だかんだで隣でケーキを頬張る少女の面倒を見ているのだから。
 もくもくとケーキを食べているのが雛菊ことひなちゃん。やっと言葉を話し出したのかと思うような舌っ足らずの声で緑を罵倒しているのが日常の一コマだ。口がケーキで埋まっていなければ、彼女も僕らの行為に「ほんとセージって要領悪いわよねー」とでも悪態をついているに違いない。パツンと切りそろえられた黒い髪からのぞく紫紺色の瞳がそう物語っている。
「ソサカが兄馬鹿の姉馬鹿なのは周知の事実だろ」
「で、でもでも! もしもの話なんだよ? ひょっとしたら違う人を答えるかもしれないじゃん!」
 ぷーっと頬を膨らませながらアカリちゃんは反論する。
「ねぇ、ソサカくん。もしもの話で良いんだよ? ソサカくんにとって、誰が一番理想のお兄ちゃんなの?」
「ぼくにとって、兄さんは十分理想の兄ですよ」
 にこりと微笑むソサカ君の笑顔がまぶしい。
 なんだか後光が差しているような気さえしてくる光景に、アカリちゃんも反論出来ずにいる。
「……まぁでも、もう少しきちんとした生活を送ってほしいとは思いますが」
「きちんとした生活?」
「仕事に集中するあまり、就寝時間が遅くなったり、食事の時間を忘れたりするので心配です」
 今に始まったことではないので、仕方ないとは思いますが……、とソサカ君は少しだけ表情を曇らせる。
 それだけの欠点がありながらも、タツキさんはソサカ君の信頼を得ている。やっぱり血の繋がりは大きいのだろうかと僕はぼんやり考えたが、彼らが紡ぐ絆はそれ以上の物がありそうな気がした。
「ソサカ君の理想はタツキさんになるわけだけど、緑はどう?」
「あ?」
「理想のお兄さん。誰が一番近い?」
 緑の答えを予想するのはほんの少し難しい。彼が憧れる対象は、兄というよりは父というか、それ以上に『大人』としての目標のような存在なのだ。ここであの人の名が出る確率は僕の中では半分くらいだった。
「んなの、加護さんに決まってんだろ!」
 半分の確率は見事に的中する。それから目を輝かせながら、緑は「加護さんはほんと恰好良くてだなぁ」と彼の偉大さを一から語り始めるではないか。とんだ地雷を踏んでしまったようだ。
「ほんと緑ってばそればっかり」
 ぺらぺらと加護さんの偉大さを流暢に語る緑を横目に、ひなちゃんが冷めた目を向けている。
「そういう同じはなしをするのがボケのはじまりなのよ」
「誰がボケんだよ」
「同じはなしをしてる、って気づかないのがボケてるショーコなの!」
「ボケてねーっつってんだろ!」
 声を荒げる緑に対し、ひなちゃんはつんとそっぽを向いて反抗する。
「あとね、加護ちゃんは緑のおにいちゃんっていうよりは、おとうさんって感じよ」
「まぁ、年齢的にそっちのがしっくりくるよね」
 ひなちゃんの発言に僕は頷く。
 緑の心酔する加護さんは、三十代くらいの男性だ。無精ひげが目立つとはいえ、顔立ちが整っているので本当はもっと上かもしれないが、十五・六ほどの緑と親子と言われても違和感はあまりない。
「加護さんが、親父……?」
「だってそっちのがしっくりくるでしょ?」
 ふふんと勝ち誇ったように笑うひなちゃんだが、そのセリフはつい先程僕が口にしたものだと気づいているのだろうか。
 まぁ、世の中気づかない方が良いことも沢山あるけど。
「い、いやいや。加護さんはやっぱり兄貴だって! 兄貴分だって!」
 そう反論する緑の声には、動揺が色濃く浮かんでいる。実際はひなちゃんの言う通りなのだが、意地だけで反論しているのだろう。それすらも見透かした少女は、たどたどしくも鋭い声で指摘する。
「じゃあ、緑の理想のちちおやって誰なのよ」
「は?」
「理想のおとうさん。誰なのかってきいてるのよ」
 その言葉に緑は少し黙り込んだ。それから苦虫を噛み潰したような顔でぽつりと答える。
「………………加護さん」
 ほらみなさいよ! というひなちゃんに、緑はうっせーだまれ! と掴みかからん勢いで怒鳴り返す。そのいつもの光景をのんびり眺めながら、僕はメモに書き加える。

 加護さん、ワンポイント獲得。


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category: ◆小説(文字系ネタ)

2012/12/10 Mon. 18:46 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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