骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

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 美味しいカップケーキでお腹を満たした僕だったが、それ以上に大切な何かを失うという苦い結果を味わう羽目になった。まさかこんなダメージを負う仕事だなんて、数時間前の僕には想像出来なかったことだろう。
 次の目的地に向かう僕の足取りは、当然重い。正直、アカリちゃんがいなければそのまま職務放棄すらしたいくらいの気分だ。
「せ、セージくん! 元気出して!」
 どんよりと重たい空気を感じ取ったのだろう。アカリちゃんは笑顔を強張らせながら、僕を励ます。
「ひなちゃんの言い方に問題があっただけで、理想のお兄ちゃんに指名されたことは素敵なことだよ!」
「……そうかなぁ」
「だってほら、そもそも、セージくんが優しくなかったら、ひなちゃんはセージくんが理想のお兄ちゃんとは思わないんだよ? それってつまり、いつも優しくしてもらってるからこその、ご指名であったわけで……!」
「うんまぁ……それはそうなのかもしれないけどね……」
 ……でもねぇ。
 奴隷だもんねぇ。
 なんだかんだで、ひなちゃんは僕の性格を把握しているのだ。この仕事のように、不満があろうとも頼まれたことを断れない性格であるからこそ、僕が抜擢されてしまった。
 単に優しいだけなら、僕である必要はない。
 納得した様子のない僕をみて、アカリちゃんは「うぅぅー」と慌てた様子だった。
「ねぇ、ソサカくんもそう思うよね?」
「はい」
 にっこりと笑いながら、ソサカ君は間髪入れずに頷く。
「ひなちゃんはあれで結構人見知りする子ですから、信頼がなければ指名されませんよ」
「……ひなちゃんが人見知り?」
 ソサカ君が言うのならばそうなのだろう。そう思う僕に反論する僕がいるのも事実で、彼の言うことに納得出来ない僕は助けを求めるようにちらりとアカリちゃんの方を見る。アカリちゃんは素直じゃない僕と同じ意見のようで、きょとんと目を丸くしている。
「そうなの、かな? ひなちゃんって結構、誰とでも仲良くなれそうな感じだけど」
「会話くらいなら出来るでしょうけれども、それでも結構、相手を選んでいますよ。緑と三人で一緒にいる事が多いのですが、ぼくにはあまりお願い事はしてきませんし」
「へぇ、意外。緑くんよりソサカくんのが、色々聞いてくれそうなのに」
「遠慮させてしまっているのでしょうか」
 そう呟くソサカ君は笑っていたが、それでもどこか寂しそうに見えた。
「セージさんは落ち込んでいるようですが、ぼくからすればちょっと羨ましいくらいなんですよ。一緒にいる時間はぼくの方が長いのに、指名されたのはセージさんでしたし」
「……ご、ごめん」
「いえ、悪いのはぼくですから。きっと何か口うるさく言ってしまったのかもしれません」
「そんなことはないと思うけど」
 ソサカ君は優しい。アカリちゃんが理想の兄だと指名するほどに優しい。
 だからこそ、彼女にとっては歯がゆい思いなのではないだろうか。
 現実でも現実と思えない程暖かい言葉を、受け入れることが出来ないだけではないだろうか。
「きっとひなちゃんは、ソサカ君に優しくしてもらってるから、召使みたいに扱えないんだよ」
 彼女にとってのお兄ちゃんは、
 何でも言うことを聞く奴隷であらねばならないのだ。
 だから割とどうでもいい、僕が指名されたのだろう。
 本当に傍にいたい、緑や彼を差し置いて。
「……まぁ、結構難しい質問だからね」
 誰が良い兄さんであるか。
 そもそも『兄』という概念が漠然としているのだ。『兄』とは単なる血縁関係に過ぎず、内面を表す情報はそれ自体に含まれない。『兄』が『兄』である以上、妹か弟が存在するのだろうが、その面倒を『兄』が見るとは限らない。
 “良い”兄さん、である以上、やはり優しいだとか面倒見が良いというのを連想してしまいがちだが、果たしてそれが良い“兄”であるかと聞かれたらまた話は別なのだ。優しくて面倒見のいい兄が四六時中傍にいるというのも、僕からすればあまり良い状況ではない。その優しさに甘えてしまい、なんだかんだで今以上の駄目な人間に成長してしまいそうな気がするのだ。
「というかそもそも、仲が良い友達とかは指名しづらいよね」
 指名というよりは、想像だろうか。
 生活というのは、家族だけで行われるものではない。必ず外との接触があり、そこで友好関係を築いていくものだ。
 仲のいい友人を家族にしてしまっては、外との関係がなくなってしまう。
「確かにそうだねぇ。私も、フレッサを理想のお姉さんです、とは言いにくいなぁ」
 同い年っていうのもあるかもしれないけど、とアカリちゃんは頷く。
「じゃあつまり、ソサカくんはひなちゃんにとって大事な友達ってことなんだね!」
「多分ね。だからソサカ君は、あんまり気にしなくて良いと思うよ」
 落ち込んでいた僕がいうのではあまり説得力がないかもしれないが、ソサカ君は僕らの励ましに「ありがとうございます」とにこりと笑ってくれた。
 その笑顔を崩さないためにも、僕はもう一つの可能性をそっと心にとどめておくことにする。
 僕らが向かっているのは、ルチルの研究室だ。ソサカ君が指名した1123――タツキさんのところである。
 アカリちゃんは僕の仕事を手伝うために同行しているが、ソサカ君の目的は別にある。生活リズムが崩壊している兄のために、焼いたカップケーキを食事代わりに運んでいるのだ。これなら冷めても食べられるし、行儀は悪いが仕事の片手間にも口にすることが出来るというソサカ君の配慮である。
 そういうマメなところは、兄というよりは母のようで、きっとひなちゃんも同じ気持ちだったのではないかと思うのだ。『至急キングオブ良い母さんを判明させよ!』なんてことになったら、性別の枠を超えてソサカ君が一位になるのもそう難しくないような気がした。



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category: ◆小説(文字系ネタ)

2012/12/30 Sun. 22:25 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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