骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

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 研究室が散らかっているのはいつものことで、今日も今日とて積まれた本やガラクタのような何かがずずずんと山のように居座っていた。部屋の半分がそういった物で埋め尽くされているのだが、これはまだ綺麗な方だ。昼寝が出来そうな大きなソファとローテーブルのある応接スペースへ直進できるのだから。酷い時では山が行く手を阻み、迷宮に迷い込んだのではないかと錯覚する状態でそこまで進まなければならない。
 ソファに腰かけていたのはタツキさんではなく、ナオキだった。僕らがぞろぞろと入ってくるのを見ても、挨拶もしなければ何事だろうと首を傾げることもない。ただちらりと、そのぼんやりとした赤い瞳をこちらに向けただけだった。
 黒い髪に黒い服。表情の乏しいぼんやりとした青年は僕より年下なのだが、テイラーとしては先輩という非常に難しい立ち位置にいる。本人が「別に敬語とか、いい」と言われてもなお、普通に話しかけることにちょっと抵抗があったりするのはここだけの話だ。
 微妙な感情を抱く僕の代わりに、にこりと微笑んだのはアカリちゃんだ。
「ナオキさん、こんにちは」
「……ちは」
「タツキさんって、奥にいるんですか?」
 ぐるりと部屋を見渡す。部屋にタツキさんの姿はなく、恐らくナオキのルチルのメンテナンスを別室で行っているのだろう。
「ん」
 案の定、ナオキはこくりと頷いた。
「しばらくかかるって」
 そう答えてから、ナオキから「ぐー」と音がした。表情に微塵も変化がないので非常に分かりづらいが、どうやら腹の虫が騒いでいるらしい。
「なんかおいしいにおいする」
「あ、兄さんにケーキを持ってきたんですよ。召し上がりますか?」
「食べる」
 答えるとほぼ同時に、ナオキはソサカ君からカップケーキをいくつか受け取る。もらう数を一つに留めないのは、僕には出来ない芸当だ。
 もぐもぐとケーキを頬張るナオキを横目に、僕はアカリちゃんに言った。
「タツキさんが手を離せないんじゃ、すぐに調査は出来なさそうだね」
「質問だけなんだから、先に答えてもらおうよ」
「難しいんじゃないかな……」
 タツキさんはソサカ君と実の兄弟ではあるが、その性格は驚くほどに似ていいない。ソサカ君がいつも浮かべる柔らかい笑顔をタツキさんが浮かべることはなく、いつも眠たそうで眉間に深いシワを刻み込んだ不機嫌極まりない表情を作っている。性格もそれに比例していて、温厚なソサカ君に対して、タツキさんは頑固というか、規則を重んじる傾向にある。
 僕らテイラーにとっての必需品、ルチルクォーツ。魔法石とも呼ばれるその品を管理するのがタツキさんの仕事で、そのルチルに異常がないか調査、修正するのが彼の仕事だ。このメンテナンス作業は定期的に行われるものであり、その間はテイラーとして任務に赴くことが出来ない。だから予め、メンテナンス時間をしっかりと組み、管理している。数秒とはいえ、後から来た僕らが、メンテナンス終了を待っているナオキを差し置いて用件を済ます、ということを彼は良しとしないだろう。
 そもそも聞く耳を持ってもらえるとも限らない。食事や睡眠を忘れるほど、彼の集中力はずば抜けているのだ。僕らが声をかけた程度で気づいてもらえるかは怪しいところだ。
「聞き取りの期限は今日中だけど、調べられる範囲で良いと思うんだ……。そんなに急ぐ必要はないと思うよ」
 少なからず、ではあるが。
 出てきた名前を辿る以上、そうそう長い調査になるとは思えない。タツキさんの答えもなんとなく予想はつく。その先の彼が、誰の名を口にするかはこれっぽっちも想像出来ないのだが、それでもあと二、三人にとどまるはずだ。
「急ぎじゃないなら、待ってようか……」
 そう言いながらも、アカリちゃんの表情は浮かない。調査の結果が気になる、というよりは、調査に支障が出る可能性を危惧しているのだろう。
「恐らくですが、」壁にかけられた時計を眺めて、ソサカ君がいう。「もうしばらくすれば、姉さんもこちらに来ますよ」
「ヒギリさんが!」
 アカリちゃんの表情が一変して輝いた。
 ヒギリさんはアカリちゃんにとって憧れの存在だ。アカリちゃんがテイラーになるきっかけとなった人であり、目標そのものでもある。ヒギリさんは僕らとそれほど年は離れていないのだが、テイラーとしての活動歴は長く、あちこちの任務に顔を出しているためなかなか忙しい。本部での訓練が主体で、たまに任務先へ顔を出すようなライフスタイルの僕らとはなかなか時間があわないのである。
「これはもう待つしかないよね! お喋りとかね! しながらね!」
 わくわくと期待に胸を膨らませながら、アカリちゃんはさっとソファに腰を下ろした。ナオキの向かいに腰かけたアカリちゃんは、有無を言わせない勢いでべしべしとソファを叩いている。
「さぁさぁ、セージくんも座って座って!」
 飼い主にお座りを仕込まれている犬の気分ってこんな感じなんだろうな、なんてぼんやり考えながら、僕もソファに腰かけた。



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category: ◆小説(文字系ネタ)

2012/12/30 Sun. 22:27 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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