骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

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 タツキさんとヒギリさんの登場を待つことになった僕らだったが、ソサカ君はのんびり腰を下ろす時間はないらしい。聞くと、これから緑と稽古をする約束らしいのだ。タツキさんにカップケーキを渡すように頼まれた僕は、ナオキからカップケーキを死守するというクリート討伐よりも難しいのではないかと思う任務を請け負う形になった。
「だ、だからぁ! これ以上は駄目なんだってば!」
「まだ残ってる」
「残ってるんじゃなくて、とってあるの!」
 お腹を空かせたナオキは、貰った分では物足りず、残りの全てを胃に収めたいらしい。僕もケーキを口にしているので、その気持ちはわからなくもないのだが(正直なところ、僕ももう一つくらい食べたいくらい美味しかった。遠慮なんてせずにもらっておけばよかった)、だからといって、人の分まで食べてしまうのはいけないことだ。
 とりあえずカップケーキの入った袋をナオキから遠ざけようとしたのだが、いつもの彼からは考えられないような俊敏な動きで追いかけてくるではないか。「ちょっとくらい、いいだろ」という彼の言い分はとても子供じみているのだが、その声を発する主は僕よりも背が高く、とても子供とはいえない体格なのだ。僕が袋ごと両腕をあげたところで、ナオキの間合いから外れることはない。
「タツキは小食だから、代わりに食べとく」
「せめて本人の承諾を得てからにしてね! 勝手にしたらただの横領だからね!」
「大丈夫、タツキなら許してくれる」
「その自信はどこからくるのッ?!」
 僕が驚いている間にも、ナオキはじりじりと距離を詰め、袋を奪いとるタイミングを計っている。
 ……なんなんだ。
 なんなんだ、この執念は……ッ!
「あ、アカリちゃん!」
 ナオキの様子に気を配りながら、僕はアカリちゃんの方へ視線を向ける。この非常事態に彼女はのんびりとソファに腰かけたまま、自分で淹れた紅茶を飲んでいたりする。どうやら彼女の目には、僕らが死闘を繰り広げていることはこれっぽちもうつらないらしく、「鬼ごっこ楽しそうだなー」とほのぼのとした様子が彼女の傍を取り巻いていた。助けを求めても、冗談としかとらえてくれない気がする。
「うぅぅ……」
 僕だけでなんとかしなければならないらしい。
 ……仕方ない。
 僕は必死に頭を働かせる。けれども思いついた救済策は驚くほどお粗末なもので、本当にこれが通用するとは思えない。何度も自分の司令塔に「流石にこれはないですよ!」と反論しても、司令塔は「いやいやこれでいけるって!」とこの案を押し通してくるのだ。
 ……し、仕方ない。
 意を決し、ナオキの方へ向き直る。胸元に抱え込んだ袋から、カップケーキを一つ取り出す。それを奪われないように細心の注意を払いながら、僕はナオキにビシッと人差し指を突きつけ叫ぶ。
「す、座れ!」
 飼い犬にするようなそれである。こちらが怯んでいるという事実を感じさせない毅然な態度が重要だと本で読んだことがあるが、でもそれは対犬用。人に通用するとはとても思えない。
 その証拠に、ナオキはぽかんと固まったままだ。――否、僕がそう思っているだけかもしれない。実際、ナオキの表情はぴくりとも動かず、うんともすんとも言わないのだからその心情を図ることは出来ない。
(さ、流石に無理があるよね、これは……)
 と、長い沈黙に僕が耐え切れなくなる頃、驚くことにナオキはその場に座り込んだではないか。
「座ったぁぁぁぁぁっ?!」
 それも床に正座である。彼にプライドはないのだろうかと心配になるほどの潔さだった。
「セージが座れっていった」
「言ったけど……」
 言ったけどさ……。
 まさか本当に座るとは思わないじゃないか……ッ!
 今更ながらに僕に罪悪感がのしかかる。
 とりあえずそれを軽減させるべく、ナオキに床ではなくソファに座るように指示した。それから、このケーキはタツキさんとヒギリさんの分であって、ナオキの分は既にないこと、食べたいのであれば、二人に直接承諾を得てからではないと食べられないことを説明した。それを聞いたナオキは、口の端をほんの少しだけ下げながら、こくりと頷いた。どうやら危機は脱したらしい。
「ナオキさん、そんなにお腹空いているんですか?」
 アカリちゃんの淹れた紅茶をすすりながら、ナオキは首を傾げる。
「……あんまり?」
「じゃあ、ケーキいらないじゃん……」
 この一連のやりとりは一体なんだったのだろうかと思える返答に、僕はがっくりと肩を落とした。



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category: ◆小説(文字系ネタ)

2013/02/16 Sat. 00:48 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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