骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

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 先に顔を出したのはタツキさんの方だったが、僕らの話しを聞いてもらえそうになかった。「ナオキー、ここだけどー」という気だるげな確認の声が、まだルチルの調整が済んでいないことを如実に物語っている。
 奥の部屋から顔を出したタツキさんは、ソファでくつろいでいる僕らを見て目を丸くした。満月のような瞳はみるみる日が立ち、半分ほどでぴたりと固定されてしまう。
「……おい、アカリ」いつものどこか眠たそうな瞳をこちらに向け、タツキさんは低い声でいう。「お前またルチル壊したのかよ」
「壊してないですよ!」
「……じゃあ、なんでいんだよ」
 そう呟きながら、タツキさんは僕らのくつろぐソファの方へとやってくる。
「えっとですねー、話すと長くなるんですけど、」
「じゃあ、後にしろ」
 アカリちゃんの前置きを一蹴し、タツキさんは再びナオキにいくつか調整の確認をし始めた。「自分から聞いておいてその態度はどうなんですかぁ!」と憤慨するアカリちゃんだったが、仕事モードに突入してしまったタツキさんの耳には何一つ届かないのか、彼はどこ吹く風でナオキとの会話を続ける。「まぁまぁ……」と僕がなだめると、アカリちゃんは渋々口を閉ざしてソファでじっとしていた。
 タツキさんとナオキの会話に耳を傾ける。ルチルクォーツは持ち主に合わせて調節していく必要がある。だから、同じ『メンテナンス』でも、僕とナオキの『メンテナンス』はまた違う作業になるのだろう。僕の持つルチルへの知識は、専門なんて言葉からはかけ離れた、『テイラーでは常識』程度のレベルでしかない。それでも二人の会話から察するに、調整の作業にはまだまだ時間がかかりそうだった。
 その間じっと待っているのも気が引ける。僕はこの手の沈黙だとか待機時間というのに対して大した不快感は抱かないのだが(むしろこうやって話題の中心から外れている方が心地いくらいだったりする)、アカリちゃんもそうとは限らない。彼女もそれほど自己中心的ではないにしろ、『自分の話をないがしろにされた』という怒りは時間が経つにつれて大きくなるに違いない。
 再び怒りが沸騰する前に、僕はアカリちゃんにお茶のおかわりを申し出た。他ごとに取り組んでいれば、少しは気が紛れるだろうと思ってのことだ。案の定アカリちゃんは嬉しそうにお茶のおかわりを用意している。
「……それにしても、そのティーセットってタツキさんの私物なの?」
 失礼ながら、タツキさんが自分で紅茶を淹れるとはとても思えなかった。タツキさんは目の前に紅茶を出されたらなんの抵抗もなく口にするのだろうが、結局のところその程度の認識でしかなく、ティーカップの中身がコーヒーだろうとホットミルクだろうと飲み物であれば何でもいい、と食にこだわらないのではないだろうか。
「タツキさんのっていうか、みんなのだよ」
 僕の質問に、アカリちゃんは手を止めることなく答えてくれた。
「ほら、ルチルのメンテでここで待つことが多いでしょ? その間に快適に過ごせるように、って、置いてあるらしいよ」
「へぇ……」
 そんなものがあったとは、初耳である。
「元々はヒギリさんが持ち込んだものらしいけど……」
「……ヒギリさんも紅茶を淹れる、ってイメージはないなぁ」
 ソサカ君は驚くほどしっくりくるのだが、ヒギリさんではちょっと想像が難しい。
「優雅に紅茶を飲むというよりは、水をそのままごくごく飲んでそうっていうか……」
「んー、まぁ確かに紅茶のイメージはないにしろ、流石のあたしでも生水はちょっと遠慮したいなぁ……」
 水道水くらいならいけるかもしれないけどー、と現れたのはヒギリさん。
 噂をすれば、である。部屋に入ったはいいが、僕らが話し込んでいたので声をかけそびれ、結果僕の背後をとる形となったのだろう。僕の座るソファの後ろで、ヒギリさんは腕を組んでいる。
 短く切りそろえられた亜麻色の髪に、人懐っこそうな黄金色の瞳。僕の失礼極まりない発言に腹を立てるわけでもなく、ヒギリさんはぼすんと、ソファに座り込む。
「あと、紅茶は淹れるの苦手だけど、飲むのは好きだぞ! というわけで、あたしも紅茶欲しい!」
「今淹れますね~」
 ヒギリさんの催促に、アカリちゃんは笑顔で応じる。「あとついでにタツキの分もよろしくー」とヒギリさんは弟への気配りも忘れない。
 ヒギリさんとタツキさんは双子の姉弟らしい。思わず『らしい』とつけてしまうほどに、二人の性格は似ておらず、浮かべる表情や出てくる言葉も何一つ違う。双子と言えども二卵性なのだから、多少の変異は仕方ないにしろ、似たような顔で百八十度違う態度を目にするというのはやはり違和感をぬぐえないものである。
「聞いてくださいよ、ヒギリさん!」紅茶を淹れながら頬を膨らませるのは、その違和感をなかなか受け入れられずにいるアカリちゃんだ。「タツキさんってば、自分から話を聞いておいて話を聞く前に「後にしろ」なんて、話題を変えるんですよ! ひどくないですか!」
 本人の真横で文句を言うというのもなかなかひどい行為であるような気もするのだが、そこはタツキさんのスルースキルを見越してのことなのだろう。案の定というか、最早当然と言わんばかりにタツキさんはナオキとの相談を続けている。
「後で聞いてくれるだけいーんじゃない? あたしなんて、しょっちゅう話してる間に寝られるだぜー。ひどくねー?」
「ひどいっていうか、すごい気がしますけどね……」
 同意を求められた僕は素直な感想を口にする。ヒギリさんはとにかく元気な人で、その話し方も元気一杯――とにかく全力なのだ。その熱気の横で眠れるというのはかなり図太い神経が必要になってくる。
「ところで、セージとアカリもメンテ待ちなのか? それとも、このあとみんなでどっか出かけるとか?」
 それならあたしも一緒に遊びに行きたいなー、とにこにこするヒギリさん。うっかり事情を説明しようとしてしまった僕は慌てて口を閉ざし、今日何度目かの質問を口にした。
「唐突で申し訳ないんですけれども、テイラーの中で理想のお兄さんっていう肩書が似合う人って誰だと思います?」
「理想の兄さん?」
「もしヒギリさんが妹だったら嬉しいなーとか、こいつは良い兄貴分だなーとか思う人です」
 突然の質問に目を丸くしながらも、ヒギリさんは「んー」と首を傾げている。
「……そうだなぁ。……なぁ、それって一人だけじゃなきゃだめ?」
「出来れば一人でお願いします」
「あと、独断と偏見による判断でも大丈夫?」
「大丈夫です。……というか、そういう個人の意見が必要なので」
「だったら、やっぱすぐ兄かなー」
「勝(すぐる)さん?」
「ちょっと自由すぎる感じもあるけど、あたしにとっては良きお兄ちゃん的存在でさー。昔からよく遊んでもらってるし、あたしの理想のお兄ちゃんってのなら、すぐにーが一番しっくりくるんだよね」
「まぁ、確かに……なんとなく性格も似てますしね」
「だろー? ……ただなぁ、他の人のお兄ちゃんとして最適かどうか、って聞かれると微妙なんだよなぁ」
 その言葉に僕は思わず頷いてしまった。ヒギリさんのお兄さんが勝さんと聞けばすんなりと納得出来るものの、たとえば、アカリちゃんのお兄さんが勝さんですと言われてもただただ首を傾げそうなものである。
「ちなみに、他の候補って誰だったんです?」
「緑かガブさんだなー。緑はほら、よくひなと遊んでていいお兄ちゃんって感じだけど、あたしの兄貴っていう感じはまだしないし、ガブさんはよくよく考えるとお兄ちゃんっつーよりは、お父さんって感じのが近い気がして」
「が、ガブさんが父ですか……」
「あっれー? セージなら納得してくれると思ったんだけどなぁ……」
 何故か不満そうに頬を膨らませるヒギリさん。
「だってほら、ガブさんって程よい距離で見守ってくれるじゃん。父親としては理想じゃない?」
「いやそもそも、狸って時点でアウトな気が……」
 僕らはれっきとした人間なんだし。
「実は人間だったんだけど、宇宙人とか怪しい研究者の手によって喋る狸に改造された! って考えればどう?」
「どうと言われても……、そんなSFじみた展開はリアリティがなくて想像つかないんですが」
「……テイラーにリアリティを求める時点でアウトじゃね?」
 遠慮がちにヒギリさんに突っこまれた僕は、返す言葉が見つからない。ハタから見れば、僕らの日常生活だって十分リアリティに欠如しているのだ。赤い糸や化物なんて、喋る狸とほぼ同列の常識から外れた現象に過ぎない。ここがそういう場所であることは知っていたが、自分がその常識の通用しない場所にいるのだと実感するのにはまだまだ時間がかかりそうだった。
 まぁ、とにかく。

 勝さんワンポイント獲得、である。



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category: ◆小説(文字系ネタ)

2013/02/26 Tue. 00:34 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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