骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

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1123---0010 

1123


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「また、そういうどーでもいいことやってんのな」
 ソサカ君の差し入れのカップケーキをちびちびと千切りながら、タツキさんは呆れた様子で呟いた。
「どーでもいい感は否定しないけど、でもちょっと楽しいじゃん」
「そういう娯楽を職務と混合するのはどうかと思う」
 すぐさま反論したヒギリさんだったが、タツキさんの正論に完敗する形となった。しゅんと肩を落としながら、ヒギリさんはカップケーキを口いっぱいに頬張る。
「でも、結果的にそういう仕事があるんですから、仕方ないじゃないですか」
「……まぁ、上からの命令じゃあ、逆らえないだろうけど」その点に関しては、オレはセージに同情するけどな、と前置きしてから、タツキさんはじろりとアカリちゃんを睨みつける。「お前に関しちゃ、別問題だろ」
「い、いーじゃないですか、協力したって! だってほら、今日の訓練ノルマはきちんと終えたんですし、私の自由時間に何してもいーじゃないですかぁ!」
「まだ何も言ってねーだろ」
「目が怒ってました! 自主練サボッてんなよ、って怒ってました!」
 余程いつも叱られているのだろうか、アカリちゃんは今更ながらに怯えた様子で、ヒギリさんの影で身を小さくする。
「あー、タツキがアカリを脅してるー」
「だから、オレは何も言ってねーだろ。混ぜっかえすなよ」
「じゃあ、話を戻すけど、タツキにとっての1123って誰なんだよ」
「…………あー、やっぱすぐ兄かね」
「だよなぁ」
 満足げにヒギリさんが頷くと、タツキさんは「一般向けではねーけどな」とヒギリさんと同じような意見を呟いた。どうやら、投票に関する意見も同じなのようで、その辺りは流石双子、ということなのだろう。
 ルチルのメンテナンスを終えたタツキさんに、僕は恒例の質問をしたのだが、タツキさんは答える前に「なんでそんなこと聞くんだよ?」と顔をしかめてしまった。まぁ、それが当然の反応だろうと思いながら、僕らはケーキを頂きながら事情を説明していたのだ。タツキさんは相変わらずむすっとした様子だったが、ヒギリさんもナオキもソサカ君のカップケーキとアカリちゃんの紅茶の前にほくほくとした様子で、ソファ一帯は比較的穏やかな雰囲気に満ちている。
「じゃ、次はすぐ兄に聞き取りに行くんだな!」
「そうなりますね……」
 頷いた僕だったが、勝さんの居そうな場所、というのに僕はあまりピンと来ない。
「でも、勝さんってどこにいるんでしょうね? なんというか、いつも任務に出かけてて、あまり本部にいないイメージが強いんですが……」
「まぁ、大体そのイメージ通りだしなぁ。任務じゃなかったら、医務室にいると思うけど」
 勝さんはハウンドの医者だ。そんな彼が本部にいないことが多い、となると、ハウンドの人はどうやって怪我や病気に対処しているのだろうかと僕はちょっとだけ心配になる。(よくよく考えれば、ハウンドの誰もが怪我や病気とは無縁そうな人たちばかりなのだが)
「ハウンドの医務室って、どの辺りなんですかねぇ……」
 と、僕が移動先について確認しようとしたところで、ヒギリさんが「あ」と忘れていたと言わんばかりに目を丸くする。
「医務室っつっても、ハウンドじゃなくてイデアルの方な」
「……え?」
「ハウンド側の医務室って、すぐ兄の管轄なんだけど、あそこすっげー汚くて倉庫みたいになってるから入らない方がいいぞ」
「……その状態もどうかと思うんですが……、いや、それより、どうして勝さんがイデアル側の医務室にいるんです?」
「そりゃ、淀ねぇがいるから」
 けろりと答えるヒギリさん。
 淀ねぇというのは、淀染さん――淀染くららというイデアルの女医のことだ。勝さんが淀染さんを好いていることは周知の事実ではあるが、それとこれとは別の問題なのではないだろうか。
 ……まさか、
「まさか勝さん、任務に行っていないときは、ずっと淀染さんのところに顔を出してるんですか?」
「そのまさかだ」
 ぐっ、と握り拳に親指を突き出すヒギリさん。
「……それって、その……」ヒギリさんでは話にならないと判断した僕は、ちらりとタツキさんに視線を向ける「……ストーカー、とかでは……ないんですよ、ね……?」
「違う……と、思いたい」
 珍しく歯切れの悪い返答。
「訴えられたら負けるレベルだとも思うけどな……」
「…………それって、大丈夫なんですか?」
「まぁ、淀ねぇが訴えない限りは平気だろ」
 それだけ答えて、タツキさんは手にしたカップケーキにかぶりついた。どうやらこれ以上話す気はないらしい。
「っつーか、おれストーカーじゃねーから、訴えられないし平気だって!」
 ふふん! と誇らしげに笑いながら登場したのは、勝さん。
 噂をすればそのに、である。
 短く切りそろえられた赤毛に、大きく円らな海老色の瞳。少年のような出で立ちの勝さんは、その風貌にふさわしい無邪気な性格の持ち主だ。小柄ということも相まって、どう頑張っても今この場で最年長とは思えない。
 探す手間が省けたと考えるのは、前向きな思考回路を持っている人の考えであって、残念ながら常に後ろ向きに作動している僕の思考回路は勝さんにストーカー疑惑をかけていたことを聞かれてしまったことに対する危惧で一杯だった。言い訳じみた何かを発言しようと必死になって考えている間に、勝さんは「それより!」と話題を切り替える。どうやら僕の失言に関心を持っていないようだった。
「タツキー、お前、何で診察にこないんだよー。淀めっちゃ怒ってたぞ」
 どこかぽかんとした様子でタツキさんはカップケーキをもぐもぐと咀嚼している。ケーキと一緒に勝さんの言葉も噛みしめた彼は、ちらりと時計へ視線を向けてから、カレンダーの方へと視線を向ける。カレンダーには過ぎた日付にバツ印がつけられていたが、その日付は三日前で打ち止めになっている。
「うっわー……」
 事情を理解したのだろう。タツキさんは頭を抱えながらソファに身を預ける。傍にあった穴に入るかのように、タツキさんの長身がずるるる、とソファに埋もれて行った。
「久々にやっちまった……」
「だからカレンダーはちゃんとチェックしとけって言ってんじゃん」
 にしし、と笑いながらヒギリさんが言う。
「カレンダーはチェックした。日付が止まってるのが悪い」
「えー?! 印打ってなかったあたしが悪いのかよ!」
「ってか、お前ら、喋ってないで医務室いけよ」
 もっともなツッコミを入れながらも、勝さんは空いているソファに腰を下ろす。
「まだ食い終わってねーんだよ……」
 紅茶でケーキを流し込むものの、タツキさんの手にはまだ半分ほどカップケーキが残っている。
「食わなかったら食わなかったで今度はソサカに怒られる……」
「だったらまー、食ってからで良いんじゃね? どーせ、今日だってルチルのメンテとかで忘れてたんだろ?」
 流石というか、1123に指名されるだけあって、勝さんもタツキさんの行動パターンをお見通しのようだった。
「淀も想像ついてるだろうし、今更ちょっとくらい遅れたって一緒だろ」
 けらけらと笑う勝さんに、タツキさんは何も答えなかった。きっと淀染さんへの言い訳を必死に考えているのだろう。
 タツキさん待ちとなった勝さんは、「おれもちょーだい」と言いながらカップケーキを手に取り、誰かが頷くよりも早くかぶりついた。手にしたケーキは運悪く、ナオキがわけてもらったうちの一つだったので、殺気のこもった視線がナオキから放たれる形となる。
「……俺の」
「あ、ほーなの? わふいわふい、いっこほらうわー」
 口にケーキを頬張りながら喋るので、何を言っているのかなんとなくしか分からないが、悪い悪いという割に勝さんには悪びれている様子がないことははっきりとわかる。(そもそも何かを食べながらの謝罪では誠意はゼロに等しいのではないだろうか)
 ビリビリと放たれる殺気にも勝さんは動じない。決して彼がそれに気づいていないのではなく、この程度の殺気は彼にとっては日常茶飯事――もしくは、それ以下の気に留めることすらしないような殺気なのだろう。
「そ、それより、勝さん!」
 険悪なムードに耐え切れなかったのか、アカリちゃんがパンと手を叩いて話題を切り出す。
「テイラーで、『理想のお兄さん』がいるとしたら、誰だと思います?」
 彼の性格的に、どうしてそんなことを聞くのかと尋ねるのは、返答してからのことだろう。「ほーだなぁー」と口ももごもごさせた勝さんは、ごくんとケーキを飲み込んで答える。
「いないな!」
 気持ちのいいほどキッパリとした答えだったが、僕は頭が痛くなる思いだった。
 該当なし。
 勝さんがそう答えるということは、調査終了ということにもなる。
 その事実自体は、願ってもない状況だ。このよく分からない調査を続けていくのは、正直しんどい。
(ただ、問題なのは……)
 これでは決着がつかないということ。
 該当なしにワンポイント加算しても、勝さんと該当なしが同点となってしまう。
 例えばこれが、勝さんともう一人の誰かならば、どちらも一位という結末もありかもしれない。けれども、『該当なし』という意見では、どちらも一位でしたとは言えないじゃないか。
 これは完全に、

「……詰んだ」



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category: ◆小説(文字系ネタ)

2013/03/01 Fri. 02:15 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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