骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

07« 2017 / 08 »09
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.

1123---0012 

1123

---0012


 恋は盲目、という言葉が存在するのだが、この言葉を勝さん以上に再現出来る人がいるのならば一度お目にかかりたいものだ。
 彼の意中の相手である淀染さんの元へ向かった僕ら一行だったが、医務室に到着するや否や、勝さんは「遅い!」と開口一番叱られた。ちなみにこの言葉は勝さんだけでなく僕らの後ろに隠れるように立っていたタツキさんにも向けられている。(念のため言っておくと、タツキさんはこの場の誰よりも背が高く、たとえ猫背だったとしても僕らの影に隠れ切れるような可愛い身長ではない)
 言い訳をしようとするタツキさんを診察室の奥へと押しやりながら、淀染さんは僕らの要件も聞いてくれた。調査はそれほど緊急を要するものでもないので、僕は任務の一環で淀染さんに聞きたいことがあり、それはタツキさんの診察後でも何ら問題ないことだけ伝えた。すると淀染さんは、すぐさま「勝! ぼーっと突っ立ってないで二人の茶でも用意しないか!」と声を張り上げる。当の勝さんは雑用を押し付けられたことを怒るわけでもなく、むしろ雑用を頼まれたことを喜びながら、丁度切らしていたというお茶の葉をとりに厨房へと駆けて行った。いつ何時も綺麗に片付いている医務室の主である淀染さんがお茶の葉を切らす、というような初歩的なミスをするとは到底思えないのだが、彼女自身がそういうのだからそうなのだろう。
 決して、勝さんを一秒でも早く医務室から追い出すつもりだったとか、そんなことはないのだろう。
 そう信じながら、僕はアカリちゃんと医務室のソファに腰かけていた。
 テイラーの医務室は、病室というよりは保健室に近い内装だ。薬品の詰まった白い棚がいくつか並び、消毒液の匂いが微かに鼻をかすめる。白いカーテンで区切られた奥にはベッドがいくつか並んでいるはずだ。病状が重い者や、任務から帰還直後の者が使用するベッドで、僕も何度か使用したことがある。布団が硬いとかそういうことはなく、むしろふかふかしてて気持ちいいくらいだったのだが、やはり落ち着いては眠れなかった。汚れ一つない真っ白な布団にくるまれると、なんだか自分が酷く汚れているように思えてきてしまいどうも落ち着かないのだ。まぁ、枕が違うというのも大きな理由なのだろうけれども。
 僕が利用したのはせいぜいこの辺りまでで、タツキさんが押しこめられた奥の部屋は入ったことはない。まぁ普通にレントゲン室とか専門的な設備のある部屋なのだろうと想像する。
 基本的な診察は僕らのいるこの部屋で行われる。それぞれの位置を説明すると、まず入り口があり、その左手に机とソファ、その奥に淀染さんの使っている事務机。入口の右手に病床があり、その奥に薬品棚と、奥の部屋に続く扉がある。薬品棚の傍にはよくある身長計とか体重計とか視力測定器とか、いつ使うのかよく分からない器機が置いてあったりする。どうしてこんなものが置いてあるのかと聞いたところ、「待ち時間に楽しみながら図る奴がいるからな」と暇つぶしのための用具としての意味合いが多いことか判明している。
 この医務室は先代から引き継いだものらしく、淀染さん自身も起源的なものはよくわからないようだった。特に支障が出ない限りは、そのままの形で残しているらしく、そのうちの一つがこの計測器の群れらしい。一体誰がこんなものを持ち込んだのだろうと考えてみたが、てんで想像がつかなかったので諦めることにした。
 しかしとにかくヒマである。
 勝さんはどこまでお茶の葉をとりに行ったのか分からないが、さっぱり戻ってこない。すぐにお茶を淹れれるようにと、アカリちゃんは戸棚にあったティーセットを既に準備しているのだがやはり暇そうである。こんなことなら無理を言ってでもヒギリさんに同行してもらうべきだった。ナオキにケーキを食べられたから、余ってないか確認してくる! とヒギリさんは僕らに同行せず食堂へ向かった。ナオキもまだケーキがあるのならと、あれだけ食べたというのにお腹を鳴らしながらヒギリさんの後をついていったのだが、彼はまぁ、今この場にいてもいなくても同じだろう。
 とにかく沈黙はつらい。束の間の沈黙にさえ耐え切れなかった僕は、他愛もない話題をアカリちゃんへ向ける。
「そういえば、テイラーってどこにでもソファがあるよね」
 ルチルの研究室にも、医務室にも、司令室にも、似たようなソファとテーブルが設置されている。
 それも談話するような形で、である。順番を待つ人が座る、という意味合いなら、ソファとソファを向かい合わす必要はないのではないだろうか。個人的には、顔を見られない――視界に誰も入らない形の方が居心地は良い。
「ルチルの研究室はともかく、医務室にも談話スペースがあったのは最初は驚いたなぁ」
「よく考えると、ほんとそうだね」
 うんうん、と頷きながらアカリちゃんは笑う。
「それだけみんな、仲良しってことなんだね!」
「仲良しかぁ……。でも、わざわざ医務室で話し込むかなぁ……」
「そりゃあ、私達がここで話し込んだら迷惑かけるかもしれないけど、でも、淀染さんと話をしたいときはここで話すしかないじゃない?」
「あ」
 なるほど、と、
 僕は思わず目を丸くする。
「きっと、ここにソファを持ち込んだ人は、勝さんみたいな人だったんだよ!」
 淀染さんと、
 この医務室の主人と話がしたくて、
 この医務室の主人と話し込みたくて、
 こんなスペースを作り上げたのだろう。
 …………。
 ……なんというか、
「何考えてるのか分からない人だったんだろうねぇ」
 きっと常識なんて通用しないような、
 そんな人だったに、違いない。 
 そんな風に僕が昔の誰かに思いを馳せていると、淀染さんが奥の部屋から姿を現した。出てきたのは彼女だけなので、恐らく診察が終わったのではなく、ある程度区切りをつけてこちらに来てくれたのだろう。僕らのいるソファ周辺と入口付近に鋭い視線を向けたのは、勝さんがいるかどうかを確認しているかのようだった。彼が不在なことを確認した淀染さんは、どこかほっとした様子で「遅くなってすまない」とソファの隣で足を止めた。
「タツキさんの方は良いんですか?」座る気配のない淀染さんを見上げながら、僕は遠慮がちにたずねる。「診察がまだなら、先にそちらを済ませてもらった方が良いんですが……」
「診察は滞りなく終了した。今は投薬中で、終了までに時間がかかるからな。私がこちらにいても何ら問題はない」
「なら、良いんですけど……」
「それよりも、お前たちがわざわざここに足を運んだ理由は調査だと聞いているが……一体何があったんだ?」
「淀染さんが危惧しているような、深刻な理由ではないことは確かです」
 話す手順を間違えたら、勝さんみたいに怒鳴られそうだなぁと思ってしまった僕は、淀染さんの顔を真っ直ぐに見ることが出来ない。頭上で「……ふむ」と頷いた淀染さんは、そのままソファに腰を下ろして足を組んだ。
「深刻な内容ではないただの雑談ならば、そうかしこまる必要もないだろうに……」
「セージくんに真面目になるなっていう方が無理ですよ!」
「それもそうだ」
 アカリちゃんの言葉に頷きながら、淀染さんはにこりと笑う。
「少しでもリラックス出来るように茶でも出せたら良いのだが、私はそういう調理全般に向いていなくてね。インスタントのコーヒーくらいしか置いてないんだが、二人はコーヒーは嫌いかな?」


←0011 --MENU-- 0013→


スポンサーサイト

category: ◆小説(文字系ネタ)

2013/03/09 Sat. 02:18 [edit]   TB: 0 | CM: 0

go page top

コメント

go page top

コメントの投稿

Secret

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://honegumidannkai.blog.fc2.com/tb.php/316-47fc88af
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

go page top