骨組段階

小説サークル『骨組段階』のブログ。作品情報や設定、小ネタなど更新しています。

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 勝さんにお茶の葉をとりに行かせたことなんてすっかり忘れてしまったのか、淀染さんは僕らにコーヒーを入れてくれた。瓶詰された粉末を湯で溶かしただけの液体ではあるが、その暖かさは僕らの緊張をほぐすには十分な代物である。
 とはいえ、やはり勝さんの処遇に関しては気がかりだったので、やんわりと――本当にやんわりと「勝さんがお茶の葉をとりにいったみたいなんですけど……」と淀染さんに確認してみたのだが、「あいつは私が茶を淹れられないことを知っているから、今頃自分が何をとりに医務室を出たか分からなくなってる頃だ」と悪意に満ちた作為をさらりと吐き出した。こんな情報で騙す淀染さんも淀染さんだが、騙される勝さんも勝さんである。
(まぁ、本人が幸せそうなんだから、別に僕がどうこう口を挟む筋合いもないんだろうけど……)
 二人の関係は、僕がテイラーに来た時からこうである。馬に蹴られる趣味もないのだ。黙っているのが賢い選択だろう。
 淀染さん――こと、淀染くららさんは小柄な女性だ。藤色の長い髪は三つ編みの状態で一つにまとめられており、きゅっとしまった髪型はその瞳とよく似ている。彼女の黄金色の瞳は、女性にしては鋭いもので、彼女の容赦のない言葉はこの瞳で鋭利に削られているのではないかと思う時がたまにある(そんなこと絶対に口にしないが)。淀染さんの容姿で可愛らしいものといえば身長と身に着けた赤フチ眼鏡くらいなものだろうか。医者である以上、白衣の着用が避けられないとはいえ、その下に着ける衣服は好きに選べるはずなのだが、彼女がいつも身にまとうのはカッチリとした印象のワンピースやシャツがほとんどで、ラフな格好をしているところを僕は見たことがない。
 ことんと、僕らの前にコーヒーの入ったマグカップが置かれた。「砂糖とミルクは?」と聞かれたので、僕は「そのままでいいです」と答え、アカリちゃんは「砂糖は二つで、ミルクも欲しいです!」と返答する。淀染さんはリクエスト通りの砂糖とミルクとスプーンを持ってきた。仕上げ作業は自己責任らしくアカリちゃんはカチャカチャとコーヒーをかき混ぜていた。
 マグカップを手に取った僕だったが、そのままコーヒーを口にする余裕はなかった。話の切り出し方を考えれば考えるだけ泥沼にはまっていくのである。今更気の利いた言い回しなど思いつくはずもないのだが、今までのような単刀直入の振り方をする気にもなれないのだ。
「そういえば、淀染さんって兄弟はいるんですか~?」
 ふーふーと、コーヒーに息を吹きかけながらアカリちゃんが言った。
「いや、私一人だ」
「そうなんですかー? 淀染さんって面倒見がいいから、下に何人も兄弟がいそうです! なんかこう、お姉ちゃんって感じですよね!」
「……ヒギリやタツキがいるからな。そう思われるのも仕方ないんだろうが……」
 そう言って、淀染さんはコーヒーをすする。
「どうしても、この部屋にいると、私はまだまだ新米な気がして仕方なくてね。誰かの指導をする立場になっていることに、どうも実感がわかないんだ」
「淀染さんが新米だったら、僕たちはどうなるんですか……」
 田んぼに植えられる苗よりも前の段階になる気がするんだけど。
 そんなことを考えながらも、僕は目を輝かせていた。
 この流れならいける!
 ちらりと隣を確認する。アカリちゃんも同じ思いなのか、目が合うとぐっと小さく拳を握りしめて答えてくれる。
「じゃあ、逆に、淀染さんにはお兄さん的存在な人がいるわけですね!」
「誰なんですか、それー! テイラーの人なんですよね、勿論!」
 僕らの団結に目を丸くしながらも、淀染さんは「……一応はな」と頷いた。
「ただ、昔の話でもあるぞ? 今はもういない人だし……」
 その言葉に、僕らは一瞬呆けた後に顔を見合わせた。『投票の対象はテイラーに所属する人だよね?』『そうだよね!』『過去形じゃ駄目だよね?』『多分ね!』そんな感じの意志疎通をした僕らは、がっくりと肩を落とす。
「……お前たち、どこか具合でも悪いのか……?」
「悪いのは調子だと思います……」
 いつものことですけど、と答えてから、僕らは淀染さんに事情を説明した。
「……キングオブ良い兄さん……ねぇ」
「淀染さんは誰だと思います?」
「私より年上となると、ロクな奴がいないからなぁ……」
 もっともな理由に僕は何も言うことが出来ない。
「じゃあじゃあ、さっき話していた人と似ている人とかは?」
 アカリちゃんの言葉に、淀染さんの表情が固まった。それからちらりと、僕の後ろへ視線を向ける。何があるのだろうと振り返ると、壁に時計がかかっていた。どうやら時間を確認したようだ。
「……やめておこう」
 ぽつりと、淀染さんは口にする。
「あの人に似ている、と答えるのはたやすいが、それは双方に対する侮辱にもなりそうだからな。あれはあれで問題児だったし、これはこれで問題児だし……」
「えぇぇ、何ですかそれー!」
 気になるんで教えて下さいよぉー、とアカリちゃんが頬を膨らませたが、淀染さんは答えを変えなかった。
「彼の代わりになれる人は、そうそういないだろうからな。私も『該当なし』ということにしておこう」
「……ですが、それだとこの調査は微妙な結末になってしまうんですが……」
 該当なしが一位だなんて。
 一体何のために僕らは頑張ってきたのだろう……。
 というか、こんな残念な結果をどう報告したらいいのだろう……ッ!
「そこは綺麗にまとめておけば、それっぽく見えるだろう? イデアルの人間関係は良好の為、このような結果になるのも致し方ない、とかなんとか書いておけ」
「そ、そんなんで良いんですか……?」
「もしものことを考えるのは、現状に満足していない人間がすることだ」
 キッパリと答える淀染さんに、アカリちゃんが「わー! なんかカッコイイ!」と目を輝かせながら拍手を送る。
「……それは確かに、そうですけど……」
「おや、まだ不満そうだな? なら、お前の意見はどうなんだ?」
「……僕の意見、ですか?」動揺を気取られないように気をつけながら、僕はゆっくりと答える。「僕は調査員ですから、聞き取りの対象にはならないですよ」
「確かに、その場にいた存在としてはカウントされないだろうな」
 それだけ呟いて、淀染さんは立ちあがった。
「だがもしも、――もしも私が、お前を指名していたとしたら、結果は変わったと思うか?」
「……どうでしょう」
「私は変わらないと思うがね」
 くすりと微笑んで、淀染さんはいう。
「もしもの話なんて、その程度のものさ。経緯が違う程度のもので、結果がごそりと変わることなんてそうそうありえない。だからありもしないことに思いを馳せるより、今目の前をしっかりと見据えることこそが、これからの結果を大きく変える一歩になるんじゃないかな」
 その言葉は、
 きっと彼女のものではない。
「……それは?」
「私にとって理想の兄――というよりは、兄のような存在だった人の台詞だよ。彼はどこか頼りないくせに、驚くほど前向き思考の持ち主だったからね。きっと、お前には良い薬になるかと思って、言ってみた」
 それじゃあ、そろそろ処置をせねばならないので失礼するよ、と淀染さんは部屋の奥へと戻っていく。
 確かめる術は、僕には残っていなかった。肝心の淀染さんはもうこの場にいないし、戻ってくるのを待ったところで彼女は決して意見を変えないだろう。
 もし万が一、彼女が意見を変えたところで、この結果は変わらない。
 該当なし。
 彼に一番似ているはずの僕がそう思っている以上、この結果は覆らない。




 ――こうして。
 キングオブ1123が誰なのかは決まることがない、という結果が決まった。
 その結果にエルピスが納得するかどうかは僕には分からない。けれども、やれるだけのことをした結果がこれなのだ。文句を言われたってどうすることも出来ない。
 一時は『やり直し』を請求されるのではないかとひやひやした僕だったが、ガブさんからもエルピスからも、そのような請求は一切こなかった。むしろエルピスからは『ご苦労様でした』というのし紙に巻かれた菓子折りが届いたりしたので、エルピスにとっては割と満足のいく結果に収まったのかもしれない。

 ……ちなみに、肝心な菓子折りに関してだが、本当にエルピスからの贈答品だったのかは調査する前になくなってしまった。というのも、突然の贈り物に僕はただただ慌てていた。とりあえず誰かに相談しようと食堂へ持って行ったのが間違いで、慌てふためく僕をよそに、菓子折りの箱はナオキの手によって開封され、淀染さんの調査により毒が入っていないことが判明すると、瞬く間に周囲にいたみんなの腹の中に納まってしまった。僕に届いたものだったのに、僕が食べる分は一口も残っていなかった。キングオブ損な性格、なんて投票があったとしたら、僕はかなり上位に食い込むのではないだろうか。そんな調査、絶対にしたくないけれど。

(終)



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category: ◆小説(文字系ネタ)

2013/03/12 Tue. 00:26 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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