骨組段階

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雪うさぎと春の夢 

雪うさぎと春の夢 全42P

2015.04.05 発行

メインキャラ:加護


※サンプルのため、途中までになります※




「何でみんな気付かないの?」
 あんなに目立つ人がいたら通りすがる人はチラ見でもしそうなものなのに、みんな全然視界に入っていないみたいに普通に歩いている。いくらなんでもスルーし過ぎなんじゃないだろうか。
 わたしは土産物屋さんに近付いた。心の中では獲物を狙う猟師のように、外向きには別に何でもないですよって顔をして歩く。はやる気持ちを堪えに堪えて、男性のすぐ隣に立つ。改めて見ると、本当に背が高い。お父さんもそこそこ高い方だと思っていたけれど、それでも十センチ以上は差があるんじゃないだろうか。こんなに背の高い男性を見るのは初めてだ。こっそりと男性の顔を覗き込む。ちょっと無精ひげが目立つ普通のオジサンって感じだ。それでも厳ついとか怖そうと思わなかったのは、優しげなタレ目のせいだろうか。そんなタレ目のオジサンは真剣な表情で雑貨のコーナーを眺めていた。鞠の根付ストラップの一つを手にとり、熱心に選別している。
「あの」
 わたしは声をかけてみた。社会科の校外学習で色んな人にインタビューしたことがあるから、知らない人と話すのは慣れている方だと思う。
「うん?」
 こんな子供に話しかけられるとは思わなかったのだろう、オジサンは驚いたように目を見開いてわたしの方を向いた。あ、右目の下にホクロがある。泣きボクロって言うんだっけ。
「えっと。オジサンってこの辺の人じゃないよね?」
「あ、嗚呼。そうだが」
「やっぱり。そうなんだ」
 オジサンはそれ以上喋らなかった。子供と喋る気がないのか、それともただの無口なのかはわからないけれど、このままだと会話が終わってしまう。
「もしかしてドラマの撮影か何か? でも、カメラ回ってないよね。休憩中とか?」
「……そんなようなものだ」
「えっ、じゃあ俳優さん? こんな田舎までお仕事に来たの? すごいね!」
「…………」
 わたしのトークに押されたのか、また黙ってしまった。でも、それくらいで引き下がるわたしじゃない。
「わたし、俳優さん見るの初めて! サインとか書いてもらえますか? それがダメなら握手でも!」
「いや、」
「あ、自己紹介がまだでしたね! わたしは莉乃、師岡莉乃っていいます!」
 わたしはポシェットの中に手を突っ込み、サインしてもらえそうなものを探す。メモ帳は置いてきたし……ハンカチで良いかな。油性ペンと一緒にオジサンに差し出す。
「これにサインお願いします!」
「あー……」
 さすがに畳み掛けすぎたのか、オジサンは顎を触りながら遠くを見るような目をして唸った。わたしは少しワクワクしながら返答を待っていると、
「さいん、とは何だ?」
 今度はわたしが黙る番だった。なんだろう、この全く予想だにしない返答は。混乱する頭を抱え、状況を整理しようと必死に自分を落ち着かせる。
 あんなに真顔で、普段使うような横文字を不器用に聞き返してくるのは、おじいちゃんくらいのものだ。でも、相手はそうじゃない。お父さんと同じくらいか、それより若いように見えるそこそこ普通のオジサンである。間違いなく、この人は俳優さんなどではない。だったら何だ。まさか。まさかとは思うけれど、そんな格好をしているのは、着物が不自然ではない時代の人ってこと? タイムスリップ? それとも異世界人? いやいや、わたしがからかわれているだけなのかもしれないじゃないか。逆に、実は本物の大御所の俳優さんで、そういう演技をしているだけなのかも。きっとそう。現実的に考えるなら、そうに違いない。
 本当を言うと現実的じゃない方が、楽しいんだけどね。
「やだなぁもう、からかわないで……って、あれ?」
 気付くとオジサンは隣の雑貨屋さんに移動していた。今度は水色の手袋を手に取っている。
「もう!」
 赤の他人とはいえ、一方的にモヤモヤを押し付けた上、こんな幼気な子供を一人放置するなんて、一体どういうことなのか。怒りを煽られたわたしは、ずかずかとまたオジサンの隣に陣取る。
「あの!」
「うん?」
「ちょっとお話聞きたいんだけど!」
「……それは、出来ない」
「お話してくれないなら、コレ鳴らすよ。良いの?」
 ずい、と彼の目の前に防犯ブザーを突き出す。気分は悪者に印籠を突きつける格さんだ。
「何だ、それは」
 わたしの余裕はまたも一瞬にして砕かれた。今時、防犯ブザーを知らないの? 何なのこの人。本当にわからないのか、オジサンはきょとんとした顔で小首を傾げている。
「これは……防犯ブザーよ」
「防犯ブザー……?」
「これを鳴らすと、あなたはそこら辺の人に包囲されて捕まえられるの!」
「俺は何も悪いことはしていない。捕まえられる理由はないはずだ」
 言われてみればそうだった。ズレてるくせに的を得ている。
「そ、それでも捕まるのよ」
「どうして?」
「それは……わたしがこの国のお姫様だからよ!」
 わたしのとんでもない屁理屈に、オジサンは目を見開いた。わたしだって咄嗟に考えた言葉にしてはぶっ飛び過ぎだと自覚している。でも話の通じないオジサンにだって責任があると思うんだ。そういうことにしておきたい。ただでさえ顔から火が出るほど恥ずかしいんだから。
「そうだったのか」
「そう、だよ……」
「それは失礼なことをした。申し訳ない」
「へ?」
 ぽかんとしているわたしに、オジサンは深々と頭を下げた。
「姫様、ということは今回のテイラーの件、聞いていると思いますが……」
「待って待って、悪ノリしないで! ごめんなさい、本当にやめて!」
「えっ」
「ていうか、こんな田舎でお姫様ってどんな設定よ」
「違うのか?」
「そう! もう、何処までわたしをからかうつもりなの?!」
「すまない。からかっているつもりはないんだが……」
 本当にすまない、ともう一度頭を下げた。いちいちペースが狂うなぁ。
 でも、今のやり取りが本気だったのなら、何だか怪しい。まさかのまさか、本当にタイムトラベラーとか、異世界人だったりして。
「ところでさ、テイラーって何?」
「え?」
「さっき言ってたじゃん。『テイラーの件、聞いていると思いますが』って」
「…………」
「もしかして、秘密?」
「……秘密、だ」
「ふぅーん……?」
 ますます怪しい。でも、これは利用できるんじゃない?
「ちょっと待って」

(5~7P)

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category: ◆小説(文字系ネタ)

2015/07/10 Fri. 13:41 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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